たった一人の甘々王子さま


出発前夜。
リビングにて。


「優樹?」


「ん?なに?」


リビングでスマホをいじりながら寛いでいる優樹に何か含みのある笑顔で浩司が声を掛けた。


「帰国準備、大丈夫?忘れ物は?」


「え?大丈夫だと思う。持っていくもの、浩司のケースに全部乗せておいたし。入れてくれたでしょ?」


優樹は、
『どうせ実家に帰るんだし、余分な服なんて要らないよ。最小限の着替えで十分!』
と、浩司のキャリーバックに入れるのではなく、乗せていたのだ。自分のケースなど出さずじまい。
その荷物たちも『一緒にいれておいてね!』なんて言っているかのようで。


此方に来るときはせっせと荷造りしていたのに、帰るとなったらあっさりだ。
『女の子は色々と荷物があるのでは?』
なんて、浩司が心配するほど優樹の荷物は少ない。


「ふーん、じゃあこれは?持って行かないの?」


『完璧です!』と、言わんばかりの優樹に浩司がヒラヒラと散らつかせているものは..........


「あ、パスポート!!」


「コレ無いと、出国すらできないし、此処にいられないよ?」


「........それ、いつも浩司が管理してるじゃん。........忘れてないもん。........浩司担当だもん。」


ソファに座ったまま小さくなって、昼寝用のタオルケットを頭から被って言い訳。
そのままゴロンと横になってモゴモゴ、ゴロゴロ。


そんな風に拗ねる優樹もまた可愛くて、浩司も呆れるよりは微笑んでしまう。
ソファーに寝転ぶ優樹の傍に近寄り、被っていたタオルケットを剥がす。


ちょこっと恥ずかしくて、拗ね顔をした優樹とご対面。
優樹の鼻と自身の鼻がすぐ触れてしまうくらい近づいて、


「はい、お礼は?」


『はい、いつものキター!』
と、優樹は眉間にシワ。


浩司は、何かあるとすぐに『お礼』といっては優樹に触れたがる。
まぁ、大概が『優樹からのキス』で事済むのだが。
優樹も恥ずかしくて、毎回そんなに簡単にできないのだ。
いっつも時間が必要で、最後は諦めた浩司が甘くて深い、濃いめ口づけを落とすのだ。
なのに、


「ん......チュッ」


と、今回はサッと、それもかるーく優樹から済ませたのだ。


「ありがと」と、一言いうと優樹はまたタオルケットを頭から被った。


この優樹のキスに、浩司が煽られてしまったのは想定外で、


「優樹、お風呂入るよ。」


と、あっという間にお姫様だっこ。
スタスタと浴室まで移動する。
パパっと着ているものを剥ぎ取られてしまう。


「え?ちょっと?なんで?」


なんて問いかけている間に二人して身体中は泡だらけ。
心地よいシャワーの水圧を堪能していたら身体中を包んでいた全ての泡が流されていき、暖かいお湯の中に入れられた。


「逆上せないように、ちょっと湯温を低めたからね?ほら、こっちおいで?」


なんて言葉をかけて浩司の両腕は優樹の事を優しく包み込む。身も心も温まって浩司の低い声が優樹の耳元に甘く響く。


「優樹、明日は朝早いから頑張ってね?」


浩司の声が聞こえた途端、お湯の中で、ベッドの上で、甘えて求めて食べられて........
優樹が逃げても、すぐ捕まって........
声を出したら、攻められて........
疲れて眠くなったら、もう朝。


「浩司のバカ!エロ大王!」


と、優樹が叫んだ事は想定内で。
ベッドの中で取れなかった睡眠は、機内で取る予定で......
なのに、


「優樹、起きたら日本だからね。チュッ」


「もう寝るから邪魔すんな。向こうについたら、浩司とはベッド別々にするから......」


「え?それは拒否します。」


「なら、寝かせてよ......」


「優樹が可愛いから無理。」


眠りにつく暇がなく、終止こんな調子で甘かった。

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