たった一人の甘々王子さま
『ガチャリ――――』
相楽がドアを開け、優樹を部屋の中に入れる。
優樹は相楽の横顔を下から見上げるだけで促されるまま部屋に入る。
「さ、優樹さん。こちらに座って。」
談話室なのか会議室なのか優樹には解らないが黒い革張りの二人掛けのソファーに腰かける。
テーブルが目の前にあり、相楽はそこに部屋の隅に置いてあるサーバーからコーヒーをいれてくる。
「優樹さん、砂糖だけで良かったよね?」
相楽は笑顔で優樹に声をかけ隣に腰かける。
「え?何で知ってる――――?」
やっと声を出したかと思えばこんなこと。
相楽はまた優しい笑顔を優樹に向ける。
その笑顔で見つめられ、優樹はまた胸がドキリと跳ねるのを感じる。
おかしい。
こんなこと、今までなかった――――
自分は、なにか病気か?
彼の笑顔や耳の奥に残る低い声........
どれも優樹の気持ちをかき混ぜる。
心地よく感じるのに、胸は騒がしくなる。
イヤだ――――
こんなこと、経験したことがない。
どう切り抜けていいのかわからない。
彼に見つめられると、動けなくなる。
イヤだ――――
こんなの、いつもの自分じゃない。
何で......なんで......
なぜ、彼は自分を見つめるのだろう。
「優樹さん?」
声をかけた相楽の方を向く。
優しく見つめる相楽の瞳を見つめ返す。
二重で黒い瞳――――
とこかで、見たことが............?
「この瞳、何処かで見たことあるかも......」
思わず優樹は声に出した。
自分の右手を相楽の左頬に沿わせながら。
「優樹さん、思い出した?」
相楽はさらに笑顔で自身の頬に触れている優樹の右手を左手で包む。
「え?なにが―――」
驚いた優樹は包まれた右手を引き抜こうとしたが相楽に強く握られてしまう。
「ち、ちょっ........離せ.......」
「先に触れてきたのは優樹さん、貴女ですよ?」
相楽はニヤリと悪戯な笑みをうかばせる。
そして、優樹の方へと上半身を近づかせる。
優樹はその分後ろへ逃げる。
すると、相楽はまた近づく。
優樹が逃げる、相楽は近づく。
繰り返すと優樹が肘掛けに寝そべる格好で、相楽はその上から組敷く形になる。
優樹の足の間に相楽の体が割り込まれている。
『ヤバイぞ――――』
優樹は本能でそう思うが、もう後の祭りだ。
自分の右手は相楽の頬に触れたまま捕まれて動かせない。
左手はいつの間にか相楽の右手で自分の顔の横で押さえつけられている。
優樹は思った。
『この男、出来る――――』