たった一人の甘々王子さま
バタン――――――
社長室の扉を閉めた。
一緒にため息も出た。
ドッと疲労感も一緒に。
廊下を歩いてすぐ、会議室のドアノブに手を置く。
浩司と初めて会った日を思い出した。
ちょっと恥ずかしくなって、左右キョロキョロ。
誰もいないのを確認して急いで部屋のなかに入った。
ドアを閉めてもそのまま凭れる。
立っていても、気づけばズルズル腰を落とし終いには床にぺたりと座り込む。
ドアが背もたれになって。
ソファーに座るなんて考えつかない位その場から動かない。
「なんでアイツが日本にいるの?」
もうそればかり考えてしまう。
何しに来た?
邪魔しに来た?
仕事のパートナーになるかもしれないのに、なぜ邪魔しに来る?
ん?
なんの邪魔をする?
え?
何故そう思った?
どれくらい優樹の頭が?マークで一杯になっただろうか。
未だに床に座り込んだまま。
どれくらいの時間ドアに凭れていたのか。段々、その姿勢すら辛くなってきた。
そんなとき、『コンコン』と、ノック音が聞こえた。
浩司かもしれない!
なんて思って確認もせずドアを開けようと立ち上がったとき、優樹が開けるよりも早くドアが開いたのだ。
そして、開いたドアの向こう側に立っていたのは............
「し......ショウ......?」
ニッコリと優しい笑顔で立っていたのは浩司ではなく、ショウだった。
「せいかーい!オレ、ユーキに会いたくて日本に来ちゃったよ。」
と、言って驚いた優樹を部屋の中へ押し込んで自身も部屋の中へ。そして、扉を閉めた。
「ユーキ、会いたかった。はい、こっち向いて?」
呆然とする優樹の目の前に立ち、右手は頬を左手は腰へあっという間に優樹の動きを封じた。
「え?」
と、優樹が言葉を発した時にはもう遅くて
「いただきます。」
その言葉が聞こえたとき、優樹の唇はショウに食べられたのだった。
浩司とはまた違った優しいキス......
なのだが、優樹には恐怖でしかない。
顔を背けようにも、頬にあった手は後頭部を抑えて離さない。
左右に首を振ることも敵わない。
わずかな隙間ができて声を出そうと
「こ....じっ....ンッ」
浩司の名前を呼ぶもすぐ塞がれてしまう。
されるがままなのが悔しくて、優樹は思いきってショウの唇を『ガリッ』と噛んだ。
「イテッ!」
と、声がしてやっと唇が離れた。
その隙に逃げようとショウの体を押し退けてドアノブに手を伸ばしたが、すぐに捕まってしまう。
「イッテ~ッ。暴れん坊のお姫様って噂、本当だったね。」
捕まえた優樹の腕を引き寄せて自身の腕の中へ連れ戻す。
「お前!何するんだよっ!!」
勿論、優樹も反発する。
だが、細身とはいえやはり男の力。抜け出すことができない。
体を捩ったり、胸を押したりするのだがショウの腕を解くことができない。
腕の中で一生懸命藻掻く優樹が可愛く見えてショウもプッと吹き出してしまう。
「何って、可愛いユーキを手に入れるためにわざわざ日本に来たんだけど?」
優樹の動きが一瞬止まった。
そして、下から見上げるように睨み、
「はぁ?自分には浩司という婚約者がいますっ!!離せ!チカンヤロー!」
流石に腹も立ち、大声で叫んだ。
だが、ショウも怯むこともなく
「うん、知ってる。だけど、結婚してないんだから、口説いても良いだろ?」
そう言って、更に優樹を抱き寄せる。
また唇が触れそうな位置まで近づき、
「まぁ、一目惚れってヤツかな?だから、ユーキのことはコージから奪うよ。必ずね。覚悟してよ。」
ショウの口説きが終わり、またキスされそうになって
「助けてっ......」