たった一人の甘々王子さま
『ガチャッ!』
と、優樹の叫びのあと、ドアが開いた。
驚いた二人がドアの方を見ると....
「俊ッ....」
「え?優?」
「アンタ誰?」
三人の声が重なる。
ショウの腕の中にいる優樹を見た俊樹は慌てて優樹の腕をとりながら
「おい、優に何してんだよ!」
と、二人を引き離した。
『優、お前も何されてんだよ?大丈夫か?』
俊樹に助け出されてそう聞かれても、首を横に振るだけで、ホッとした優樹の身体は震えだした。
「おい、優?浩司さんはどうしたんだよ?って言うか口元の血って......何があったんだよ!叫び声がしたから来てみたんだ......」
俊樹が優樹に問いただしても何も答えない。ただ首を振るだけ。
心の奥底の『男性嫌い』が出てきたのか、俊樹の胸で泣き出した。
「俊..........としッ!」
やっと出てきた言葉は俊樹の名前。
「としぃ......ショウが......アイツがッ......」
なんとか俊樹に伝えようとしても涙が邪魔して上手く言えない。
「優?浩司さんの所へ行こう。社長室に居るんだろ?」
俊樹が促してドアの外へ行こうとしたとき
「君が双子の弟さん?」
今まで優樹と俊樹の二人を見つめていたショウが問い掛けた。
口元の血を指で拭いながら。
「そうですけど......貴方は今回の取引先の方ですよね?一体、優に何をしたんですか?」
「えぇ、今回の件で来日したショウと言います。まぁ、何があったかって......ご想像通りかと?」
『よろしく』と、ショウが俊樹に向かって右手を出した。
俊樹はその手を見つめるだけ。
「俺はこの会社の役員でもなければ社員でもありません。なので、貴方の駒にはなれませんよ?」
俊樹はショウを冷たくあしらう。
『それと―――』と、付け足して
「お聞きしたいのですが、貴方は優の傷をご存じですか?もし、知っていたら今のような無理強いは出来ない筈です。」
ショウに聞いたのだが、彼の返事は
「は?傷とはなんでしょうか?」
という言葉だった。
その言葉で俊樹の中でランク付けができた。
『この男は優に相応しくない。出来るだけ早く日本から引き上げてもらいたい。』
と。
話しても無駄だと思った俊樹は一息ついて、
「やはり、優の相手は貴方ではない。貴方には無理です。ご遠慮いただきたい。」
きつい口調でいい放った。
そして、
『失礼します。』
と、ショウに背を向けて部屋を出ていった。
廊下に出た俊樹は
「おい、優。向こうで何があった?なに知らない男に迫られてるんだよ!何故、浩司さんと離れたんだよ!大人しく抱き締められとけよ!そうしたらこんなことにはならなかっただろう?」
泣いている優樹に遠慮なく言い放ったのだ。
「ったく......いくら双子でも俺に甘えすぎだよ........もう子供の頃とは違うんだ。泣くのは俺の胸じゃないだろう?優にはちゃんと居るんだからさ。もっと頼ってやれよ。ほら、待ってるぞ浩司さん」
泣いて、俊樹の胸に顔を埋めたまま動かない優樹の背中を撫でて頭もポンポンした。