たった一人の甘々王子さま
浩司とショウの睨み合いが沈黙を生む。
その静かさを破ったのはショウだった。
「社長、申し訳ありません。今回のお話ですが―――――」
ここまで言いかけて、
「父さん!今回の浩司さんの努力を無駄にしたくはないから俺は何も言いません。ただ、優樹の心の傷を知っているのならば分かってもらいたい事があります」
俊樹が割って入ってきた。
ショウの発言など消し去るように。
「もう、俺の役目は終わったんです。双子だからといって、全て俺に任せっきりは勘弁してほしい。それに、もう優のことは全て浩司さんにバトンを渡しました。」
俊樹はここまで言いきると隣に立つ優樹を浩司の元へ連れていく。
そして、トンと背を押して浩司の胸へ届けた。
「優の意思を俺は尊重したい。だけど、優が泣く姿は見たくない。子供の頃から守り続けて15年ですよ?そろそろお役御免願いたい。それに、俺だって守りたい人くらい居るんですよ。」
そう言うと俊樹は社長室を出ていった。
去り際に、
『そちらの話が纏まったら連絡ください。それまで開発部に居ますから。』
それだけ言うとドアを閉めたのだった。
重い空気が纏う部屋に優樹はいたたまれない。
浩司もなにかを察して優樹を膝に抱いて頬を撫で優しく微笑む。
優樹もつられて微笑み返す。
その顔を見て一安心できたのか、隣の開いたスペースに座り直させた。
そして、浩司は視線を社長に向けた。
「社長、今回の件では、提出した書類を見てもらえればご理解いただけるかと。エドもかなり協力的でした。紹介してくださった方々皆が今回のプロジェクトに賛同してくださり、『是非とも傘下に』などと嬉しい限りのお言葉をいただきました。
なので、多少の邪魔が入ろうとも、エドを始め彼の右腕でもある愛娘の恋人・トムもそして、此処に居るショウも排除する協力をしてくださる筈です。」
『ご安心を....』なんて、強気な発言でショウの企みを消し去った。
優樹の父親もショウに一度視線を向けて瞬きをするとまた浩司に視線を戻し、
「そうか、では川村。」
と、手元の書類を秘書の川村さんに渡した。
「はい。畏まりました。」
川村さんも書類を受けとると自身のケースにしまい部屋を出ていった。
出鼻をくじかれたようなショウは呆然と立ったまま動かない。
そんな彼に声をかけたのは社長だ。
「ショウくん。此方へ。」
「あ、はい。」
突然の声に驚いて、ショウはソファーに近づいてきた。
座ることなく、浩司の隣に立つくらいまでショウが近寄ると社長は静かに語りだした。
「君のこと、知らない訳ではないんだよ。
過日のパーティーの後、エドワードから連絡をもらってね。『エリーが必ず伝言して!』と、煩かったそうだよ。
まぁ、優樹の隣に立つのは私としては君でも良かったんだよ?しかし、選ぶのは優樹だ。男慣れしない娘がどうなるか見ものではあったのだが......もう既に、誰も入る隙間などなかったようだね。」
ショウの動きや優樹の選ぶ道........
優樹の父親は全て知っていたかのような口ぶりだった。
『君に渡す書類は川村が持ってきてくれる。それまで此処で待っていてくれ。』
と、そう告げるとソファーから立ち上がり後ろにある社長机に移動した。
社長椅子に座ると、
「浩司くん、優樹を頼んだよ。細かい話しは二人で決めていい。必要な書類は川村が準備している。焦る必要はないが、気持ちが固まっているのなら帰国中に済ませるのもひとつの手だよ。」
そう言って優しく微笑んでくれた。
何を言っているのか解らない優樹に反して、
「ありがとうございます。」
と、お礼を言って浩司は優樹を連れて部屋を出た。
立ったままのショウに
「ご愁傷さま」と、囁いて。