たった一人の甘々王子さま
12 トラブル発生
夏に日本に帰国して、ちょっとしたトラブルに巻き込まれそうになった。
そのお陰で、二人の思いを再確認出来ので終わりよければすべてよし。
戻ってからも浩司の携わる仕事も忙しさは変わりなく、一緒に過ごす時間は少ないまま。浩司は朝も早く家を出て、夜も帰宅は12時を過ぎることも。
たまに、いつもと違う香りがしていても満たされていた優樹は気にも留めていなかった。
『仕事仲間のおねーさんが香水かえたのかな?』
くらいで。
辛く淋しい日々を過ごしていたことには代わりないのだが、エリーと恋人のトムが暇を見つけては誘ってくれたので気分も紛れ心強かった。
『ユーキもダーリンが忙しくて淋しいならば勉強を頑張ればいいのよ!』
ある日、こんなエリーの言葉で
『そうだね。浩司に負けていられない!』
優樹も自身の勉強もより一層気合いが入った。
だからこそ、浩司の周りの変化に優樹は気づくことすらなかった。
浩司が、心配かけさせないように水面下で処理しているせいもあるのだが。
優樹は時間を無駄にすることはなく、夢を目標へと意識を切り替えて、目の前の課題をクリアしていく。
今年最後の月には、優樹の頑張りが報われてエリーと共に笑顔で年越しができることに喜んだ。
その喜びのお陰か、優樹の気持ちに余裕ができた。
そして、やっと気づくことになる。
浩司の変化に。
特に何があるのかはまだわからないのだが、優樹への愛情も変わらない。
と、思っでいたのだけれど
『何か違う?』
気になり出したら疑心暗鬼の優樹が出来上がっていた。
そして、気がつけばもう雪のちらつく冬に。
町のイルミネーションも緑と赤が目立つようになった。
クリスマスまであと1週間。
恋人たちが賑わう時期だ。
もちろん、優樹と浩司も。
今日は二人とも休日で、リビングのソファーに隣同士で座りクリスマスパーティーの話をしている。
エリーの父親エドワードから親しい仲間だけで行うパーティーに誘われていたのだ。
「ねぇ浩司、エリーのとこへ行くのに何持っていけばいいの?」
買い置きしてあるお酒の瓶を見ながら優樹が質問した。
お呼ばれするのも初めてではないので、訪問するときに持参するワインやシャンパンを浩司があらかじめ準備しているのだ。
優樹にはさっぱり解らない分野なのでいつも浩司にお任せしている。
「エドは辛口が好きだからね。一番左の瓶を持っていく予定だよ。」
コーヒーを飲みながら答えて、カップをテーブルの上に置いてから優樹を抱き締める。
「ふーん。ワインの美味しさ全然わかんないや。なんでも飲める浩司って得してる感じだね。」
なんて言いながら、抱き締められた浩司の胸にもたれ掛かる。
お腹にある浩司の腕に自分の手を重ねて、のんびりした時間に幸せを感じる。
そんな静かな時間を堪能したいのだが、優樹は浩司に聞こうかどうかここ数日悩んでいた。
最近の浩司のことを。
悩んでいたところで、解決するわけでもなく......
といって、少し聞く勇気がなかったのも事実で......
まぁ、浩司が忙しくて聞けなかったのも事実で........
けれど......聞きたい気持ちがあっても、どう聞けばよいのかわからなくて悩んでいた。
『あんなに好きって言われ続けていたのに、パタッと言われなくなったのが寂しかった』とか。
『最近の浩司は仕事以外でも何か忙しい?』とか。
浩司の気持ちを優樹も信じていない訳ではない。その証しもあるのだから。
なのに、一度不安になった途端、優樹の心が黒い靄(モヤ)に押し潰されそうになってきたのだ。
『いつか、聞いてみよっかな?』
そう思い、優樹はタイミングを探していた。その日が偶々(タマタマ)今日なのかも。
折角、二人の重なった休みなのだから。
後は、もう一歩勇気を出して聞けば良いだけ......
名前も優樹なのだから。