たった一人の甘々王子さま
浩司も、腕の中でウンウン唸っている優樹をチラチラ見ていた。
右を向いたり左へ傾げたり頭と首がぐるぐるしてる。
面白いので気にしないふりして優樹を抱き締めていた。
その腕を優樹が解いて、両手を恋人繋ぎに絡めてきた。
恥ずかしいのか、モゾモゾ動いている。
繋いだまま腕をクロスさせたり、優樹自身の身体に巻き付けたり。
ふと、優樹の動きが止まった。
決意したのだろうか?
「あのさ......質問、いい?」
動かぬまま、そっと問いかけてきた。
浩司も『どうぞ』と受け入れ体制。
「こ......浩司ってさ....」
「うん、何?」
「じ......自分とさ....」
「ん?優樹とってこと?」
「ん、そう。でさ....」
モゴモゴしているだけでなかなか質問できない。もう耳まで赤いのが浩司にも丸分かりで......
優樹が可愛くて急かさず待っている。
「えっと、ね。......浩司は、自分と、ほんとに...........っこ、ん、する気....あるの?」
「ん?優樹、ごめん。大事なところ聞こえなかったよ。もう一回言ってくれる?」
「はっ?え?うそっ!」
「嘘ではないよ。優樹の声、小さかったから聞こえないよ。........ね、言って?」
恥ずかしがる優樹は浩司の大好物で。
浩司は優樹と繋がっている手を解いて、抱き起こして、膝の上に向かい合って座らせた。
「ち、ちょっと........浩司?」
背中に感じていた浩司の温もりがなくなった途端に身体の向きを変えられて優樹の前には浩司が。
ソファーに凭れて座る浩司の上に跨がるようにして優樹が座る。
浩司の両腕は『逃がさないからね』っていうかのように優樹の腰をロックする。
いつもと違って優樹を見上げるこの態勢、浩司は結構好きなのだ。
これは、問い詰める時によく使う手なのだが。
「さて、優樹の質問、大事なところが聞こえなかったよ?」
じわじわと問い詰めていく。浩司にロックオンされた優樹は逃げられた試しがない。
「......だからさ、浩司がね......前にさ、言ってた......」
そう言いながら少しは逃げようと考えていたのだろうか、優樹の視線は泳ぎ、浩司の上から降りようと肩に手をのせて立ち上がる素振りで......
「逃がさないからね、優樹?」
なんて、浩司に行動を阻止する言葉も言われたら浮かした腰を下ろすしかない。
渋々、座り直す。
『膨れっ面も可愛いな』と、呟きながらまた意地悪したくなる........
『さて、次は......』と、考えていると
「本当に浩司って、自分と結婚するの?」
顔を赤くした優樹が、俯きながらそっぽを向いて早口で聞いてきた。
「え?」
優樹のストレートな質問。
浩司が思っていた質問とは思わなかったので反射的に言葉につまった。
「えっと、さ、最近さ、って言うか......いつからって言われても困るんだけどさ......」
浩司の肩に置いた手を放しながらどこに掴まるでもなく。
ワタワタ落ち着きのない優樹の手は空をさ迷う。
が、ギュッと拳を作り覚悟を決めた。
「浩司さ、忙しくなったらさ、その話、全くしなくなった、よね?あとさ、言わなくなったくらいからさ、知らない香り、もって帰ってくるよね?.....なんか、鼻につく香りで.....」
「優樹.........」
浩司は身を起こしながら俯く優樹の顔を覗きこむ。
「それってさ、やっぱり、自分が........いつも『ヤダ』とか、『うるさい』とか......言ってたから?やっぱり........嫌いになった?」
涙を浮かべながら、言葉に詰まりながら優樹が心の内を語った。
浩司は思い返していた。
そう言われると、優樹に対してその会話が減ってきた。
此方に来た最大の目的である契約の取り決めが最終段階に来ていて忙しくて、冗談でもその話をしていなかったのは事実だ。
別件のトラブルに巻き込まれていたのも1つの理由かもしれない。