たった一人の甘々王子さま
優樹の心の奥底にある不安が1ミリでも芽生えて復活してこないように、日々これでもかというくらいしつこく愛情を言葉に出していた。
心も身体も浩司の腕の中にやって来て、安心していたのと、もうすぐ訪れる今年最大の恋人たちのイベントで、優樹に仕掛ける
予定で頭が一杯だったのも、言葉が少なくなった原因かもしれない。
優樹の言う『香り』の持ち主は、浩司へのアプローチが凄い女性のものだった。
取引先の女性なので無下にも出来ない。
さらに、その女性と優樹が会わないように、取引にも影響が出ないように、皆に協力を得て取り組んでいる最中だ。
まさか、優樹がこんなに悩むほどだとは思わず........温もりに飢えていた優樹にはしつこい位が丁度良かったのかもしれない。
ちゃんと俊樹から注意事項として知らされていたのに........
浩司は優樹をそっと抱き寄せて、背中を撫でた。
優樹は浩司の首もとに顔を埋めてピトッとくっついてすりすり。
浩司は悩んだ。
ここで計画中の事をバラすのも気が引ける。涙が出るまで悩んだとは、優樹がどれ程自分の事を想ってくれているのかが知れて、とても嬉しかった.........のも事実。
とりあえず、今は素直に気持ちを伝えるのが先決。
「優樹、俺は優樹の事が大好きだよ。」
今は優樹を包み込むのを優先させた。
そして、すかさず、もうすぐ予定しているエリーの家のクリスマスパーティーへと、話を逸らそうとする。
「そうだ、優樹。エリーからお呼ばれしているクリスマスパーティーについて確認するんだろう?」
待ち合わせ場所はどこだったとか、時間は?とか、いろいろ。
「いま、その話じゃないし......」
残念な結果が出た。
拗ねた優樹が出来上がってしまったのだから。
これは、浩司が旨く乗りきるしかない。
「優樹、エリー親子から招待されているパーティー、クリスマス当日ではないでしょ?」
「うん.........」
何故今さらそんなことを?
と、思いながら眉間に皺を寄せるのは優樹で。
「それはね、ちょっとお願いしたんだよ。クリスマス当日は、優樹のこと俺に占領させてほしいから無理だって。実はね、その日、ホテル取ってあるんだよ。何ヵ月も前からだけどね。」
ちょっと話を聞いてくれるかい?
と、お願いする目で見つめるのは浩司で。
「ホテル?」
優樹は顔をあげて浩司と視線を合わせた。
浩司も優樹の頬に手を添えて優しく伝える。そっと涙を拭いながら。
「そう。25日は、恋人達にとってとても大切な日だろう?」
「まぁ、そうだね...........」
そう言う視線を逸らしそうな優樹に浩司は額を合わせて
「その日のために、俺は一人で色々作戦会議を開いていてね。そのせいって言えば聞こえはいいかもしれないけれど、優樹に悲しい思いをさせたことにはかわりないから謝るよ。ごめんね。」
と、言えるところまでの予定を話す。
その言葉に優樹も
「ん.......」
相槌をする。
ホッとした浩司は
「なので、ちょっと楽しみにしてもらいたいんだ。俺にはハードルが上がって緊張感が増すけどね。」
少し冗談も含みながら苦笑いぎみで優樹の不安を取り除く。
「ん、準備してくれてたんだね。ありがと。.........それなら、待ってる。」
「ありがとう、優樹。」
スッと優樹の左目から流れ落ちた涙を浩司は指で拭う。
優樹もその手に自分の手を重ねる。
浩司の手の温もりが嬉しくて頬擦りも。
そんな優樹の仕草に浩司も嬉しかった。
だからこそ、辛い思いをさせて申し訳なかったと思う。
俊樹の言葉を思い出す。
『浩司さん。最後に1つ良いですか?
優の事を守ると決めたのなら、絶対に守りきってください。優の手を離さないでください。アイツは、結構辛いこと経験してますから.........今は虚勢張ってますけど、一度その鎧を脱いだら脆いですよ?剥ぎ取った責任は最後まで取ってくださいね。』
『優樹を守るって約束したのに。俊樹くんに顔向けできないな.....』
浩司は自分の手に頬擦りしている優樹にそっと口づけをした。
「優樹のことは絶対に離さないから、心配しないで。ね?」
「ん.........」
優樹はクリスマスのイベント前に、ちょっとした不安で潰されそうになったけれど.........
やっぱり、浩司の愛は大きくて.........
もう一度、確認出来たことが心強くて.......
「エリーの家のクリスマスパーティー、楽しみだね?」
優樹が言うと......
「可愛い格好しないでよ?」
浩司のヤキモチ再び.......