たった一人の甘々王子さま


「優樹さんがバスケをしていて多少の腕力があるのは知っていますからね。先手必勝です。」


「だ、だからって、コレはない!暴力反対!」


優樹は捕まれた腕に力を入れて振り払おうとする。
しかし、男の力に敵う筈もない。


「優樹さん、コレは暴力ではないですよ?本当はわかってますよね?それに、貴女は女性だ。男の俺には勝てませんよ?」


「――――――ッツ」


何も言えない優樹に相楽はさらに問いかける。


「ねぇ、優樹さん。思い出したって言ったよね?」


「な、なにが―――――?こんな強引なやつ知らないよ!」


優樹は視線を逸らす。
相楽はそんな優樹に笑顔で声をかけ続ける。


「優樹さん、俺を見て?そして、思い出して?」


相楽は優樹の右手を強く握る。
優樹が相楽の方へ視線を向けると少し悲しみの瞳とぶつかる。


「え?思い出して―――って?」


優樹の頭に?マークが浮かぶ。
彼と何処かで会ったことがあるのか?
そんなの、記憶にない......


「そう、思い出して?俺の事を。もう、忘れちゃった?」


悲しみを含んだ相楽の瞳から目が離せない―――――。
優樹は相楽の頬に触れている自分の右手の親指で彼の目の下の頬を撫でる。


すると、相楽は少し驚いた顔つきになった。


こんなに見つめられても思い出せないよ........
本当に出会ったことがあるの?


優樹は記憶をたどりながら意識を過去へ持っていく。
しかし、思い出せない―――――。


「俺、優樹さんに会うために此処まで来たんだよ?」


『え?自分に会うために........?』


優樹は目を見開き、相楽の黒い瞳を見つめ返す。


「そう、優樹さんに会うために―――。だから、いくら俺の事を拒んでも時間をかけて優樹さんの心も身体も貰うからね。覚悟して――――。」


優樹の顔が真っ赤になる。
そんな言葉を言われたことなんて一度もない。
そう、いつもは言う側だから。


周りの女子からの願いもあり、いつも『格好いい優樹くん』でいた――――

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