たった一人の甘々王子さま


ローラが浩司に話しかけているのに、当の浩司はローラよりも後ろに居るエリーの動きが気になった。
エリーはゆっくり音もたてずに優樹とローラに近づいているのだ。


ある程度の距離まで近づき、『ふ~っ』と呼吸を整えて型を構えたとたん、エリーの目線は浩司へ。
その合図で次の動作がわかった浩司はすぐにしゃがんだ。


「ふざけるんじゃないわよっ!」


大声で叫んだ途端、ローラの手にしていたナイフが空を舞う。
エリーの蹴りがローラの脇腹に当たり、優樹との間に距離ができる。その勢いでナイフも飛んだ。


ローラの手から刃物がなくなった隙をついて浩司は優樹を奪い抱き締めて、エリーはローラを後ろから羽交い締めに。


放心状態だった優樹は浩司に抱き締められてもすぐに反応せず、声をかけられ、体を揺さぶられてやっと気づいた。
その時、浩司は初めて優樹の右頬につけられた傷を見た。


「優樹、ごめん。また、守れなかったね.......」


頬の傷にキスをして、浩司は優樹の事を更に強く抱き締めた。もう離さないって思いが伝わるように。


「.........こ.....浩司ッ.....」


頬にキスをされて緊張が解けたのか、優樹の目からは涙が溢れる。
震える手で浩司の背中を抱き締めた。


「さて、コージはどう処分するんだい?」


廊下からトムの声が聞こえて皆がそちらに視線をやる。


「なになに?ここで浩司の姫さんが襲われてんの?」


トムの後ろには一組の男女がいたのだ。
優樹がロビーで見たであろう浩司とキスをしていたであろう女性。


「あ、浩司がもう一人.......でも、違う?」


ゆっくりドアの方へ視線を向けた優樹がポツリと呟いた。
その言葉に気づいた浩司に似た男は、軽い口調で語り出す。


「うわっ!姫さんやられちゃったね~。浩司、早く手当てしないとかわいい顔に傷が残るよ?お?エリーは相変わらず逞しいねぇ~トム、あちらのお嬢さんに言いたいことがあるから頼むわ。」


『はーい、失礼しますよ~』


浩司に似た顔でチャラい口調.......
優樹は目の前の浩司の顔をじっと見つめた。そして、チャラい浩司に視線を戻す。


チャラい浩司はトムに引き渡されたローラに歩み寄り、今までのふざけた雰囲気をなくして冷たい目になった。


「はい、ローラさん。こんにちは。貴女の父上のこと調べさせていただきましたよ。想像以上でした。ビックリですよ。貴女の父上、結構悪どい事されてますね~貴女のプライドが傷つくのであえて言いませんが、ここに居る浩司はいくら脅しても手に入りませんよ?そんなことをしたら、あなた方が潰されます。ここは大人しく身を引いては如何かな?お嬢様は引き際が肝心です。さぁ、あちらへどうぞ。」


チャラい浩司はチャラさがなくなってドアの前で立っていた女性の方へ誘導した。
エリーもトムも一緒にローラを連れて部屋を出ていった。


優樹の前を通りすぎるとき、エリーは


「ダーリンの誤解が解けそうね。」


なんて、ウインクしながら囁いた。


『バタン』と、ドアのしまる音が合図のようにチャラい浩司は優樹を抱き締める浩司に話しかける。


「ったくさぁ~お前の色恋沙汰に巻き込まれるのって初めてだけど、こっちの女はやることスゲーな。巻き込まれると結構大変だなぁ~って身に染みたわ。あと、可愛い姫を傍に置いてんだな。ちょっと見せて?」


あ、またチャラい口調。
一歩、優樹に近付いてくるので浩司はチャラい浩司に背を向けるように優樹を自分の胸に閉じ込める。


「やだね。お前にはアリサさんが居るだろう?」


浩司のその態度にチャラい浩司は眉間に皺を寄せて、


「お?そんなこと言える立場かよ?俺が探りを入れて仕掛けなきゃあの親子にとって食われてたのはお前だぞ?」


浩司に迫る。
諦めた浩司は
『仕方がないな。少しだけだぞ?』
チャラい浩司にそう言って、優樹にお伺いをたてる。


「優樹、助けてくれたこいつ.......俺の従兄弟なんだよ。ちょっとだけ挨拶できる?」


「え?浩司の従兄弟?だから、色々似てるの?後ろ姿とか声とか.......」


浩司の胸から顔を離して、優樹は浩司と従兄弟を交互に見つめる。


「え?うん。まぁ、似てるかな?俺たちの母親、一卵性の双子だし。」


優樹にとって初耳だった。


「え?おばさん双子だったの?」


「優樹、今更驚く所じゃないよ.......」


「優樹ちゃん、はじめまして。浩司の従兄弟、譲治(ジョウジ)です。浩司の母親の姉の息子だよ。お互い次男でね、見た目もそうだし、名前も似てるからよく間違われるよ。よろしくね。」


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