たった一人の甘々王子さま

浩司の従兄弟はそっと手をだし握手を求めた。優樹も浩司に抱き締められているとはいえ一度離れて握手に応じた。


「田所優樹です。よろしくお願いします。」


優樹の手をとった譲治はクイッと引き寄せて、


「優樹ちゃん、俺と浩司を間違えてヤキモチ妬いたってホント？」


優樹の耳元で囁いた。
すぐに頬を赤らめた優樹に気がついた浩司はさっと引き戻して


「アリサさん、早くこいつを連れていってください。」


後ろで待つアリサにお願いをする。
アリサもあきれ顔で『まったくもう...』なんて言ってる。


「譲治は本当に浩司をからかうのが好きね。ほら、最後仕切るのは貴方なんでしょう？早く行くわよ？浩司は彼女の事、宜しくね。」


『さっさと歩く！』
秘書でもあるアリサには頭が上がらない譲治は首もとを捕まれて引き摺られるようにこの部屋を出ていった。


「優樹ちゃん、また会おうね～」


最後の声はドアの閉まる音でかき消されたが.........


「はい、優樹。こっち来て。」


すぐそばのソファーに座らされた優樹。浩司はすぐにキッチンへ何かを取りに行く。
水の音や冷蔵庫を開けて氷を出す音――。
色々聞こえる。
トレイに乗せて戻ってくると素早く傷の手当てをしてくれた。


「優樹、ごめん。譲治のせいで手当てが遅れた。この傷、深くないけれど病院に行こう。」


濡れタオルで顔を拭いて、消毒。
薬を塗ってガーゼを当てる。


「大丈夫だよ。すぐ治る。―――昔の傷だって治ったしさ。」


優樹が笑顔で答えるが、浩司は微かに震えていたのがわかった。


「優樹、震えてるよ。今日は、怖かったよね.....頑張ったね.......」


浩司は手当てを終えて、優樹を自身の胸にｷﾞｭｯと包み込んだ。


「浩司も.........助けてくれてありがと。」


優樹も笑顔で答えた。
が、目に涙が溢れそうなのは浩司もわかっている。
浩司は優樹の事を暫く抱き締め、なにかを決心したように言葉を紡ぐ。


「優樹、こんなときになんだけどさ.......今までずっと一緒にいたけど、これからもずっと隣に居られるように、二人の事を皆に解らせるために、さ.........」


ここまで気持ちを伝えた浩司は優樹の身体を離して、立て膝をついて優樹の手をとる。


「田所優樹さん。」


ゆっくりと優樹の名前を呼ぶ。


「は、はい。」


緊張した優樹は背筋が延びる。
じっと見つめ合う二人。


「俺と―――」


浩司がことばを発したとき、


「ユーキ、コージ！大口契約とれたわよ！！」


バーン！とドアが開いて笑顔で部屋に入ってきたのはエリーだった。後ろには状況がわかったのかトムが申し訳ない顔をしている。


「譲治は本当に出来る男なのね～さっき、あっという間に商談をまとめちゃって～」


笑顔で話すエリーに優樹と浩司は笑みがこぼれた。
折角のタイミングを壊されてしまったのだが、エリー相手では起こる気にもなれず.......


「優樹.......」


そっと優樹の名を呼びながら耳元に顔を近づけた。


「ん、なに？」


内緒話かな？なんて思った優樹も聞く体勢をとる。


「今夜、覚悟していてね。」


浩司の脅しが聞こえた。




クリスマス当日。
優樹はトラブルに巻き込まれたが、何とか救出されました。


浮気発覚？なんて心配したけれど、結果は、浩司の従兄弟の譲治さんだとわかった。
一緒にいた秘書のアリサさんと夫婦だと知ったのは、もう少しあとの事。


さて。
今夜、浩司は無事に優樹に思いを伝えることが出来るのだろうか？