たった一人の甘々王子さま
「何故逃げるんですか?」
「先生が此方に来るからです。」
「頑張る生徒にハグするだけですよ?」
教授が両手を伸ばして優樹に触れようとしたとき、横から伸びてきた腕に引き寄せられた優樹の身体。
すぐに上からいつもより低い声が聞こえる。
「要らぬお世話です。女性徒が皆、先生のハグが好きだとは思わないでください。」
「浩司.........」
優樹を抱き止めたのはもちろん浩司で。
「すぐに手を出す教授がいると少し小耳に挟んだので付き添って来ました。田所優樹の婚約者です。いつもお世話になっております。」
「あ、そう。」
教授は広げた腕をストレッチするかのように誤魔化した。
「田所さん。レポート、受けとりました。君のことだから再提出はないよ。単位も十分足りてるし。次に会うのは卒業式だね。お疲れさん。良い教師になりなよ」
「はい。ありがとうございました」
「まぁ、隣に居る彼がそうさせてくれるかはわからないけどね?」
「え?それはどういう意味ですか?」
「その答えは彼に聞きなよ。俺は答えないよ。じゃまたね、田所さん。」
そう言って、教授は優樹と浩司を部屋の外へ追い出しドアを閉めた。
「ねぇ、浩司。」
「ん?なに?」
ドアを見つめたまま優樹は教授の問いかけを浩司に確認する。
「浩司って、教師にさせてくれないの?」
「あぁ、それはね。」
浩司は優しく優樹のお腹に手を当てて
「優樹の此処に俺の赤ちゃんが来たら教師の仕事はお休みしてくれないとね」
と、答えた。
優樹の顔が赤く染まったのは想定内で。
「ま、まだ来なくて良いよ!春からの赴任先決まってるんだし!」
「え?俺は早く来て欲しいよ」
「1年で休職はやだよう......」
優樹は俯いて浩司の胸に頭を凭れかける。
浩司の手は優しく頭を撫でる。
「優樹......俺、一人目は30迄には欲しいよ。因みに、来月の誕生日で28だからね」
「ぜ、善処します。」
「向こうにいる間に作っておけばよかったね。そうしたら、おもいっきり教師の仕事に打ち込めたかも.........」
「浩司の言葉なんて聞こえない!」
「優樹の体調がよければ教師は続けても良いんだよ?」
「......赤ちゃんが出来たときに考えるよぅ......」
『シュミレーションは大事なんですよ!』
と、浩司が言っても恥ずかしがる優樹は余裕なんてない。
そんな二人のところに赤ちゃんが来るのはもう少し先の話。