たった一人の甘々王子さま
「俺の傍にいて、俺だけを感じて、俺だけを見つめて........思い出して欲しい。そして、俺の事を好きになって――――。」
『優樹、好きだよ――――』
相楽はそう呟きながら優樹の唇に自分の唇を――――
「――――やだっ!」
優樹はすかさず相楽の手首を掴んでいた手を離し相楽の口を覆った。
「――本当にっ......自分のことが好きならっ........こんな、無理矢理っ........」
相楽の目を見つめながら、訴えかけるように言う優樹の両目からは涙が零れ落ちる。
相楽は優樹の頬から手を離し涙を拭い、自身の口を覆っている優樹の手を掴んで外す。
「む......無理矢理したら、あんたのコト嫌いになるからっ―――――」
「優樹........」
名前を呼びながら睨み付ける優樹を優しく抱き起こし―――
「じゃあ、コレくらいならいい?」
――――――チュッ!
そう言いながら相楽は優樹のおでこにリップ音をさせながらキスを落とす。
「なっ........キ......キス......したっ?!」
捕まれた手を振りほどきキスされたおでこに両手の手のひらを当てる優樹。
「好きな女の子には触れたいと思うのが男心なんですよ?逆も然り―――」
悪びれることもなく相楽はシレッと言う。
「じ、自分はまだ好きじゃないもん!」
優樹は相楽に背を向けながら叫ぶ。
「ん?『まだ』とは?」
ニヤリと口元を吊り上げ揚げる相楽は足を取る。
「ねぇ、優樹。『まだ』ってコトは?いつか俺のコト好きになってくれるってこと?」
背を向けている優樹の肩口に顔を寄せて語りかける。
「―――――――。」
優樹はなにも言えず、俯く。
言われ慣れない言葉を沢山聞かされて、頭はパニック寸前。
赤みが引いた顔はまたもや赤く染まっていく。
先程流した涙はもう止まっているが―――。
「――――今夜の顔見せはコレくらいにしておきますか。」
フッと優樹から離れて相楽は立ち上がる。すぐそばで感じていた温もりがなくなり優樹は相楽を見上げる。
その表情はどこか寂しげで........
優樹にはなぜそんな顔をしたのかその意味はわからないが、相楽は何かしら感じ取ったようだ。
「週末の引っ越しが楽しみだね。新居で待ってるよ。」
『では、お先に―――』
と、優樹を一人残して相楽は部屋を出ていく――――――。
優樹はこの日、優樹だけを優しく包み込んでくれる王子様・相楽浩司に出逢い、捕まってしまったのだった。