たった一人の甘々王子さま


優樹はそっと浩司に抱きつく。
そして、感謝の気持ちを伝える。


「見つけてくれてありがとう。女の子にしてくれてありがとう」


恥ずかしいのか更にギュッとしがみついた。浩司も驚いたが、優樹を包み込んだ。
優樹の背中をポンポンと触れて


「それはね。俺の台詞だよ。優樹こそ、俺のところに来てくれてありがとう。結構強引に手元に置いてしまったからね。嫌われるの覚悟していたんだよ。小さい頃の優樹しか知らなかったからね......」


浩司の温もりに包まれて安心する優樹は浩司の首元に顔を埋める。


「あとさ、なんで自分だったの?全然女の子じゃなかったのに。見た目も仕草も何もかも」


今更ながら、何故浩司が自分に惚れたのか問い掛ける。
浩司も、結婚式前夜に聞かれるとは思わず動きが止まった。


「え?今、聞きたい?」


「今聞かなかったら、いつ聞くの?」


浩司との距離を取って優樹は催促する。
視線を反らそうとする浩司の両頬を挟んで『逃がしません!』と、目で伝える。


「はぁ~。」


「ため息ついてもダメ」


「聞きたくない所もあるかも知れないよ?」


「泣きません!」


引かない優樹に浩司は諦めて昔話をする。



―――――――――――――――――――



あれは、優樹が脚に怪我を負ってからのこと。


春休みのある日。
その日は俊樹と一緒に父の会社に来ていた。
塞ぎ混んでいた優樹を外に連れ出すことも兼ねて。


俊樹はこの頃から少しずつ跡取りとしての教育も受けていた。
子供の頃から会社には遊びに来ていたので、役職のついた社員にも顔馴染みで勉強させてもらっていた。


年を重ねるごとに俊樹は会社の中のことを学びはじめて優樹とは別行動をとるようになる。その間、優樹は秘書課の社員と仲良くなり、コピーなど手伝っていた。


『優。俺、専務さんと打ち合わせに行ってくるから此処で待ってて』


『あぁ、わかった。企画、通ると良いな』


『おぅ、行ってくる!』


秘書室から出ていった俊樹を見送り、優樹はソファーに座り直した。


『優樹くん、怪我してるところ申し訳ないんだけど......』


『はい、何ですか?』


『この書類を海外事業部の斎藤部長のところへ届けてもらいたいんだけど良いかしら?』


『自分が触れても良い書類ですか?』


『今、斎藤部長に電話で確認したら優樹くんなら大丈夫と言われたわ。それに、封筒に入っているから、ね?』


『はい、わかりました。行ってきます』


そう言って優樹は秘書室を出ていった。


この頼まれ事があったからこそ浩司との出会いに繋がったのだから。
仕組まれた出会いだと知らないのは優樹だけ。

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