たった一人の甘々王子さま
『斎藤部長はいらっしゃいますか?』
海外事業部へやってきた優樹は近くにいた社員に声をかける。
『あら、優樹くんいらっしゃい。斎藤部長なら自席にいるわよ』
『ありがとうございます。お邪魔します』
優樹は封筒を大事に抱えて斎藤部長のところへ。
『斎藤部長、お久しぶりです。頼まれた書類を持ってきました』
『おぅ、優樹くん。すまないね、助かったよ。よかったらコーヒーでも飲んでいきたまえ』
『いえ、皆さんのお仕事の邪魔はできません。またの機会に。失礼します』
笑顔で挨拶をしてその場を離れる。
部屋を出ていくとき、
『あ、優樹くんこれ持っていって。秘書課の皆さんと休憩の時にでも食べて』
さっき声をかけた社員さんに声をかけられる。わざと引き留められてとは思わずに。
持っていたのはお土産だろうか?
『これね、課長が取引先から頂いたものなの。皆で分けたんだけどまだ沢山あるから優樹くんも食べて』
『あ、ありがとうございます。俊も食べて良いですか?』
『もちろん。お口に合うと良いのだけれど』
女子社員と仲良くおしゃべりしているとき、父親に呼ばれて田所コーポレーションに到着した浩司がやって来たのだ。
ここで、二人が再開したのだ。
優樹は浩司だと知らずに。
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「あの時の優樹の笑顔に一目惚れしたのかな」
昔話を終えた浩司は懐かしむように呟く。
「え?全然惚れられる要素なんてないし!見た目も俊と変わりなかったはずだよ?」
優樹は未だに何処に惚れられたのかわからない。
「優樹の『目』だよ」
「目?」
首をかしげて繰り返す。浩司は頷いて答える。
「そう、優樹の誰にも負けないっていうあの視線に捕まっちゃったかな」
「それにしても、書類を届ける所から仕組まれていたなんて知らなかった.........」
「俺も、後から父さんたちに聞いたんだよ。俊樹くんも知ってたはずだよ?」
「え?俊も共犯?」
「違うよ。後から知らされたんだよ。」
『ふーん、そう』
なんて、いいながら優樹の口元は少し尖っていく。知らされてないのが分かって拗ねたか?
「さて、優樹。明日は本番だしそろそろ寝ますか?」
優樹を膝の上から下ろして浩司は立ち上がる。
「うん、寝る。先に歯磨きしてくるよ」
浩司の手に引かれて優樹も立ち上がり洗面台へ向かう。