たった一人の甘々王子さま


体育館でいつものように練習が始まる。
身体を動かしていると、イライラした気持ちが小さくなっていく。
いや、そうでもしないとあの時のコトが思い出されてしまう。


「優樹――」


「ハイ!」


「カバー入って!」


好きなことをしていると気分が良い。
気の知れた仲間と共有出来る時間はとても貴重だ。
いつまでも、皆と過ごしていければ良いのに――――――。



―――――――――――――――――――



「ハイ、集合―――!!」


「お疲れさまでした!」


「「ありがとうございました!」」



今日の練習も終わり、時間は午後6時だ。
片付けをし、更衣室に移動。シャワールームでは女子ならではの会話が繰り広げられる。


スポーツをしていても、優樹のようなイケメンばかりではない。お洒落な女子だっている。
最近流行りの雑貨やカフェのお店は何処ぞかがお勧めだとか、やれ彼氏がどうだとか........


女子の会話は途切れることがない。
優樹は殆ど皆の聞き役だ。


『この間、彼と行ってきたカフェがおすすめでね~』


「良かったじゃん。何処のお店?」


『先週公開の映画、面白かったよ!』


「へぇ~次の休みにいってみるよ。」


『優樹君、彼から電話が来なくて......』


「先輩だろう?レポートの提出に追われていて忙しいんだよ。」


なんて会話、いつものこと。


「優樹君、先日の用は片付いたの?」


シャワーが終わり、タオルを頭から被り乾かしていると声をかけられた。
父に呼び出された日、飲みに行かないかと確認してきた涼子先輩だ。


「先輩......」


嫌なことを思い出した優樹は苦笑いだ。
触れてほしくない件に話が持っていかれたのは嬉しくない。


「まぁ、コレから片付けるってトコロですかね......」


「手間が掛かりそうみたいね、無理しないでね。じゃあ、お先に―――」


涼子先輩は、気さくで誰とでも話せる先輩だ。苦手な人が居ないのではないだろうか?と、思うくらい。


空気を読める先輩で、こちらのふとした仕草で立ち入って欲しいか欲しくないかを瞬時に判断できる。
年上の彼氏が居ると言っていたから、大人の付き合いに慣れているのだろうか。


立ち回りが旨い人で羨ましい――――
優樹の憧れる先輩の一人だ。


「さて、自分も帰るとするかな~」


着替えを鞄に積めて帰り仕度をする。
纏めた荷物を肩にかけて、スマホを確認する。
もしかしたら誰かから連絡が来ているかもしれないし。


指を画面に触れさせスライドさせる。
と、其処には俊樹の名前が表示されていた。


「俊?何かあったのかな?」


メールも電話もあったのだ。
一日に何件も俊から連絡が来ることがないので不思議に思う。


『とりあえず、電話してみるか』


挨拶をしながら足早に部屋を出ていく。


「お疲れさまでした。お先失礼します!」


「はーい。」


「優樹くんまた来週ね~!」



更衣室に残る仲間に声をかけ外に出ていく。歩きながら電話ができそうなスペースを探す。


「あ、あそこのベンチにするか―――」


構内の銀杏並木の片隅にあるベンチを見つけて腰かける。
荷物を隣においてスマホに登録してある俊樹の名前を探す。

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