たった一人の甘々王子さま
『プッ、プッ、プッ、プッ―――――』
『俊、出てくれるかな――――』
なんて思いながらスマホを耳に当てる。
もしかしたらエミとデートかも........なんてね~
数回コール音が聞こえると
『優か?』
俊の声が聞こえてきた。
「もしもし、俊?ゴメン、今練習終わったところ。悪い、何度も連絡くれたのに。何かあったか?―――――」
『おい、優、呑気だなお前!今、どんな状況になってるのか解ってるのか?』
電話の向こうの俊樹は慌てているのか声も大きい。
トラブルにでも巻き込まれたのだろうか?
「え?どんな状況って........今、バスケ終わったよ?これから家に帰るけど、なにか問題が?」
気になる点などない優樹には、なにがなんだかさっぱりだ。
『優......俺さ、今日休みで昼頃まで寝てたんだよ。そしたらさ、ドタバタとデカイ物音がし出してさ――――』
俊樹の言葉で優樹の顔は段々と青ざめていく。
今まですっかり忘れていたことが徐々に思い出されていく―――――
まさか、そんなことがあるはずない―――
本人がいないのに、そんなことが―――
『優の部屋の荷物、全部、川村さんの指示で引っ越し業者に持っていかれたぞ!!』
俊樹の声でその思いが確信に変わる。
「はぁ?―――マジで?」
『んなコト嘘ついてどうする!優、この間聞いた父さんの話、マジだったんだな........』
俊樹の声が遠くに聞こえる――――
「ホントに――――同棲?」
耳に当てていたスマホは優樹の膝の上に置かれる。
呆然とする優樹。目線は下がっていく。
思考が停止していく優樹に向かって誰かが歩いてくる。
その人は優樹の前で立ち止まる。
視線の前に誰かの足が入ってきた。
優樹は気がついても顔を上にあげる事が出来ない。
誰かわからない靴を見つめるだけ。
それは、男性の靴だというのはわかった。
「優樹―――もう、気づいた?」
その声は、聞いた事のある低音ボイスだ。
優樹はすぐに顔をあげその男を確認する。
優樹を見下ろす男―――――やはり、父が紹介してきた婚約者・相楽浩司だ。