たった一人の甘々王子さま
優樹は身支度を済まし、荷物をもって部屋を出る。
向かった先のダイニングでは父親・良樹(ヨシキ)が新聞を読みながらコーヒーを口にしている。
出勤前の一時、スーツに身を固めながら寛いでいるようだ。
切れ長の目の右下の黒子が大人の色気を増長させている。
優樹の父親は田所コーポレーションの代表取締役。背が高く、細身だ。
優樹の身長が175㎝もあるのは父親の遺伝のおかげなのか。
そんな父の落ち着いた表情はやっぱり取締役という役職柄もあるのだろう。
「父さん、おはよ――」
「あぁ、おはよう。まだ眠そうだね。」
「まぁね~」
優樹はリビングのソファーに荷物を置きながら会話を続ける。
「おはよう、美樹(ミキ)チャン。」
「あら、優樹チャンおはよう。今日は早いのね?」
キッチンで朝食作りをしている母親が声をかける。小柄で笑顔の可愛い専業主婦だ。
「でもね、優樹ちゃん。朝の挨拶くらいもう少し笑顔でね。」
見た目や仕草や会話が男らしい優樹。
なのだが............
実は、二十歳の女の子だ。
この見た目、昔のトラウマもあり、双子の弟もいることで段々と男の子らしく過ごしていき、今では父や弟にも負けないイケメンに育った。
「あれ?優って今日午後からじゃねぇーの?」
声をかけてきたのは優樹の双子の弟、俊樹(トシキ)。
一卵性なのでそっくりだ。
彼もまた背が高く185㎝ある。
優樹と二人で街を歩いているときはイケメン兄弟だと黄色い声が上がるほどだ。
いつだったか、『イケメン特集』の雑誌取材をしているスタッフに声をかけられたほど。
「あー......そうだったんだけどさ、エミからさっき電話来て......休講していたヤツが今日の1限になったって。」
優樹はそう答えながらダイニングに移動し、俊樹のとなりに座る。
「え?優、忘れてたの?その件、いつだったか話してたよな?俺でも覚えてるよ。そっか、それが今日なんだな。だからか............」
飲んでいたコーヒーのカップを置きながら俊樹が答える。言葉が続いているが、優樹はテーブルに用意してあるサラダのミニトマトに手を伸ばす。
「んー、すっかり抜けてたよ......あ、自分さ午後はトシんとこで練習試合あるんだよね~観に来る?エミ連れていくし、喜ぶよ?」
優樹は大学でバスケ部に所属しているのだ。
エミは同じ大学に通う幼馴染み。
弟の俊樹は違う大学で、テニス部所属。
因みに、エミは俊樹の恋人。
「午後っていってもなぁ~俺、教授に呼ばれてるからそっちに行かないとさ......話長いんだよ、あの人。」
俊樹は教授の顔を浮かべながら溜め息をつく。
「行けるかわかんねぇからなぁ~でもエミには会いたいし......ん~先輩と相談するからまた後で連絡いれるわ。」
スマホをいじりながら俊樹は答えた。
「了解、エミには期待させないように声かけとくよ。」