たった一人の甘々王子さま
「―――ッ!何故? 何故、此処に居るんですかッ!?」
優樹は座ったまま問いかける。
そんな優樹に相楽は『何を言ってるんだか......』と、いうような顔つきで答える。
「大事な婚約者殿を迎えに来たんだよ―――」
相楽の言葉に被さるように
「頼んでないし、婚約者だなんて認めてないし!」
優樹が強い口調で返す。
が、そんな優樹の言葉を気にすることなくベンチに座って顔を背けている優樹に近づき
「さあ、帰るよ?」
そう言い、相楽は優樹に手を出す。
が、素直に従う優樹ではない。
「誰がアンタと帰るって?」
優樹は差し出した相楽の手を『バチン!』と叩き落としながらベンチから立ち上がる。
「ご心配なくとも一人で家に帰れます!」
優樹はそう答えて相楽に背を向けて歩き出す。
「優樹!」
相楽は優樹の背に向かって名前を呼び掛ける。すると、直ぐに優樹は歩みを止める。
素直な性格。
イヤになる。
こんなときくらい反発できればいいのに..........
「優樹の帰る場所は俺と一緒に住む家だよ?場所、わかるの?知ってるの?」
相楽は振り向くことのない優樹の後ろ姿に語りかけていく。
「それと、俺のコトは『アンタ』じゃなくて『浩司』って呼んでよ。ね、優樹。」
優樹の肩が一瞬ビクつく。
それでも優樹は相楽の方を見ない。
「優樹?聞こえてる?」
心地よい声が優しさを含み、優樹の名前を呼ぶ。
耳に残る低く甘い声。
聞いていたいけど、聞きたくない――――
優樹は顔だけ後ろを振り向かせた。
「自分が、嫌だっていったら?」
勇気を振り絞って出した声がこれだ。
「その『イヤ』は、一緒に住むことについて?それとも俺の名前を呼ぶことについて?」
問いかけた優樹に相楽は質問を投げ掛ける。
「どっちも!!」
優樹は即答。
「プッ――――」
あまりにも素直な反応で相楽は思わず吹き出した。
「そこ、笑うトコロじゃないしッ!!」
優樹は怒りが増してきた。
なんて余裕のある態度なんだろう。
相楽に対して段々とイライラが募ってきた。
吹き出した声すら心地よく感じてしまう。
そんな思いを書き消したいが為に、相楽を見つめる優樹の目は睨みに変化していく。
「名前は徐々にで良いよ。しかし、住むところは今日からお願いしたいね。社長にも言われたよね?これは、決定事項だよ。」
『さぁ、行こうか。』
相楽は嫌がる優樹の腕をつかみ、自身の車まで連れていくのだった。
勿論、優樹が叫んだのはいうまでもない。