たった一人の甘々王子さま
「優樹?なに考えてるの?」
浩司が優樹の頬に触れる。
優樹はビクッと肩を縮める。
「まずはさ、俺の事を知っていってよ。此処に住んでさ。ね?」
浩司が優樹の目線の高さに屈んで優しく語りかける。
優樹もその目線に合わせて
「だけど―――に、荷物がないよ?無理じゃん!ムリムリ!」
浩司に触れられている手を振りほどき、一歩下がって両手を目の前で左右に振って逃げる。
隙あらば逃げ出そうとする優樹に
「大丈夫だよ?優樹の部屋の荷物、全部此処に持ってきたから。」
『なんなら確認しますか、お嬢様?』
と、浩司に部屋を案内される。
玄関に一番近いドアを開けると、今朝まで過ごしていた自分の部屋が丸っとそのまま再現されている。
これには優樹も驚きだ。
「え?マジで?いつの間に――――」
「それは、優樹が家を出てから直ぐに取り掛かったよ。それはもう、大変でした..........」
浩司は恰も自分が作業したかのように語る。額の汗を拭う仕草までして。
「着替えや勉強はここでしてもいいんだけど........」
浩司が少し口ごもる。
今までペラペラと話していたのに......
気になって目線を上げ浩司を見る。
「寝るときなんだけど........」
「........うん?」
浩司は優樹に手招きをして隣の部屋のドアを開ける。
と、其処には大きなベッドが窓際に置いてある。
隣には小さめのテーブルと椅子が二脚。
寝るための部屋なのか余分な物はなくスッキリした部屋だ。
『優樹、入って。』
浩司に促されて寝室らしき部屋を覗く。
部屋に入るのは未だ抵抗があるようだ。
「ここが二人の寝室なんだ。優樹の部屋に今まで使っていたベッドがあるけど、今夜からは此方を使ってほしい。」
ベッドの近くへ移動しながら説明をする。
「は?無理!!出会ったばかりで........そんなの無理!!恋人でもあるまいし!!」
勿論、優樹は断る。
『未だ知り合って一週間も経たずに一緒の布団で寝ろと?
そんなのあり得ない!』
いくら婚約者と紹介されても、相楽浩司という人の事などほとんど知らないのだから。
もう、赤の他人と一緒だ。
そんな人と同じ部屋で寝起きなんで出来る訳がない。
無茶苦茶だ――――。
絶対に無理!!
首を縦に振らない優樹に次の言葉が―――
「社長である優樹のお父さんに許可は取ってあるんだよ?」
「え?父さんの許可を?」
思わぬ人の許可が出ていたことに驚いた。
「取り敢えず1ヶ月間、このマンションのこの部屋で一緒に生活してみようよ。其でも駄目ならまた考えるからさ――――」
優樹は考える。
此処で頷くと自分は流されやすい人間だと思われるのだろうか........
今までの家に戻ったとしても、自分の荷物は此処に運ばれてしまったから生活が出来ない。
いくら考えても、纏まらない。
自分の生活用品は此処にある。
父親も許可を出している。
もう、『成るようになれ!』だ。
「わかった。此処に住む。だけど、ベッドは自分のを使うから!」
優樹の言葉に浩司は笑顔で答える。
「ありがとう――――」