たった一人の甘々王子さま


キッチン横の壁に優樹を押し付けて、ぐいっと顔を近づける――――


「優樹――――――お願い聞いてくれないと、『キス』するよ?」


「――――――!!!!!」


急になに言い出すんだよ!


はっ!


そういえば、このマンションに来るまでにもそう脅された―――――
そう言えば大人しく従うと思われたのだろうか?
何だか腹が立ってきた!


「ちょっと!晩飯の準備するんだろ?何でキスなんだよ!訳わかんねぇ。」


浩司を睨み付ける。


「俺が晩御飯を作る。優樹は別の事を俺にする。で、そのお願いが今言ったことだけど?」


「マジで?」


「そう、マジです。別に俺は良いよ。優樹のご飯作ってあげないだけだから。」


「卑怯者!」


「なぜ? 俺の名前呼んで、自分の事を『わたし』って言うだけで、毎日ご飯の準備しなくて良いんだよ? 俺はいつか一緒に作りたいけどね~」


これ見よがしな顔で言い含めてくる。
料理が出来ない優樹には痛いところだ。


「―――ご飯、食べたい........」


「なら、俺の名前呼んで。」


「――――っ。」


悔しい!またも、コイツの言いなりになるなんて――――


「優樹、ね? 呼んでよ。」


「........ぅじ....」


「え?聞こえないよ」


「........こう......じ」


「もう一回。」


「........浩司....」


「チュッ!」


浩司の唇が優樹の唇に触れる。


「は?『浩司』って言ったのにキスしたっ!!嘘つき!!」


「好きな子に名前で呼ばれたら嬉しいに決まってるでしょ?嬉しかったらキスする。俺は間違ってない。」


優樹の眉間に縦皺が............


「屁理屈こき!もうご飯要らない!退いて!」

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