たった一人の甘々王子さま


あの晩――――――


『優樹、ご飯出来たよ。』


『う、うん。ありがと。』


ソファーに横になっていた優樹はダイニングに移動する。
椅子に腰かけると、目の前に美味しそうな料理が運ばれた。


『今夜は、はじめて二人で食べる食事だからね。自分も休みだったし、手を掛けてみたんだ。お口に合うと良いんだけどね――――』


男の料理にしては、豪華すぎる。
カレーとサラダくらいだと思っていた優樹の考えは打ち壊された。


並べられた食事は優樹の好きな和食だ。
優樹の好きな肉じゃがに始まり、手羽元と切り干し大根の煮付け。
箸休めはほうれん草の白あえとひじきの煮物。
炊きたてのご飯とワカメと豆腐の味噌汁―――――


『これ、美樹ちゃんの食事とおんなじだ――――』


『姫、お気に召していただけましたか?』


冗談混じりで浩司が問う。
毎回その低い声にドキリとする。
優樹の目の前の席にも食事の用意をすると浩司が座った。


さぁ、食べますか?


と、浩司が『いただきます。』


優樹も遅れて『――いただきます。』



まずは、肉じゃがに箸をつける。
――――モグモグ。
優樹は何も言わない。
浩司が心配そうな表情を見せる。


次は白あえを――――モグモグ。
また、優樹は無言で食べていく。


次は味噌汁。


何かしらのアクションが欲しい浩司が痺れを切らして問いかける。


『優樹、どう? 美味しい?』


手羽元に手を伸ばす優樹が動きを止めて浩司を見る。
左手にはご飯茶碗がある。


『ん? 旨いよ、凄くね。 味付け、美樹ちゃんみたいだね。自分は作れないから尊敬するよ?』


何処ぞの逆転カップルの会話なのか?
優樹の言葉に浩司はホッとした。


『ありがとう。朝から頑張った甲斐があったよ。あとで、お礼が欲しいな。』


『は? お礼? なんで? ちゃんと浩司コト名前で呼んだよ? ふーん、アンタってやっぱり嘘つきなんだ―――』


浩司のコトを目を細めて軽く睨み付ける優樹。


浩司はそんな優樹を見て『フフッ』と、笑みが溢れる。


優樹はさっきまで嫌がっていたとは思えないくらい浩司を名前で呼んでくれる。


1度打ち解けると、あっという間に懐に入ってくるのだろうか?
男勝りでさっぱりした性格だからなのか?
浩司は嬉しい限りだ。


それでね。――――――


と、浩司が優樹に催促する。


『お礼は、優樹自信が自分の事を‘わたし’って言うことなんだけど........?』


『は?』


『優樹、軍隊じゃないんだからさ。ほら1度言ってみて。‘わたし’って。』


持っていた茶碗と箸をテーブルに置いて催促する。


『はぁっ? 今はご飯中です。言う必要なし!』


何をいまさら―――――
長い年月を掛けてこの言い方をしてきて、いまさら可愛らしい呼び方に変えれるか!


『か弱い女子じゃあるまいし、できるかそんなモン! 飯が不味くなる。』


上目使いで浩司を見て、鼻で笑うように返事をする。相変わらず男前な返事だ。

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