たった一人の甘々王子さま
しかし、浩司はそんな優樹に微笑みを返す。
『だからね、‘俺の前で’って言ってるでしょ? はい、言って。』
諦めの悪い男なのか、頑固なのか..............
1度決めたら譲らない――――――
『ご飯のお礼って、アンタの名前を呼ぶってコトだっただろ?』
出逢ってからあれやこれやと五月蝿い男だ。と、思う優樹。
何でも言いなりになると思うなよ。
そう叫びたくなる位イライラが募る。
『自分の事を自分って言って何が悪い!』
しつこい!
残りの御飯とおかずを掻き込み席を立つ。
『俺の名前は呼べるのに、何故自分の事は頑なに拒むわけ?』
逃がさないよ。と、言わんばかりに引き下がらない。
『ふん!ヤローの名前くらい幾らでも呼べるわ!』
もう会話にならないと思った優樹は自分の部屋に行こうとする。
そのまま浩司の隣を通りすぎようとした時、右手首を捕まれて引っ張られてしまう。
バランスを崩した優樹は、少し椅子を引いて座る浩司の膝の上に倒れ込む。
優樹の右頬は浩司の胸にぶつかり跳ねる。
直ぐに、浩司の手は逃がさないよと言わんばかりに腰と頭を支えるように包み込む。
『んだよ!痛ってぇよ!』
優樹の言葉だけ聞いていると本当に男の子だ。
負けるものかと反発する。
『優樹?俺の前では、そんなに虚勢を張らなくていいよ。もう繕わなくていい。今の 優樹は本当の優樹ではないよね?その仮面の下に隠れている優樹のこともっと知りたい。恥ずかしがってるけど、すべて愛する自信もあるよ。』
心地よい浩司の低い声が優樹の耳元で紡がれ、冷たく固まった心の奥に届きそうだ。
浩司は抗わなくなった優樹に更に言葉をかけていく。
『今すぐって焦らせるつもりもないけどね―――近い将来、俺だけの女の子になってよ。 今まで待ったんだからさ。 もう少し位待てるよ。』
浩司の腕の中で動けなくなった優樹に優しく囁く。
なにも言えなくなった優樹は、だらんと下ろされた自分の腕を引き上げて浩司の脇の下あたりのシャツを握りしめる。
まさかそんな可愛らしい仕草を返されると思っていなかった浩司は驚く。
見た目も仕草も男勝りで、女の自分を隠したがる優樹が何のためにそうしているのか――――
『そんな鎧なんて必要ないよ............』
何度も、何度も、時間を掛けて伝えていくしかない。
『優樹?』
自身の腕の中で肩を震わしている優樹に声をかける。
優樹からはしゃくり声が聞こえる。
―――――泣いている?
そう思った浩司は、優樹と距離を取って顔を覗く。
が、すぐに顔を背けられる。
横顔だけしか確認できないので無理矢理視線を合わせる。
両目を赤くして涙を溜めた優樹の顔が窺えた。
下唇を噛み締め、涙が零れないように必死で耐えている。
『............優樹?』
『......な、なんで........そんな......こと、いうのっ!........なんでっ......わかっ......るのっ..............どっ......して......!』
涙を堪えながら語り出す優樹だが、思うように言葉がでない。
もう堪えていた涙が溢れて一生懸命手の甲で拭っている。
その姿に浩司は愛しさが増す。
『ちゃんと泣けたね? ほらね、優樹はこんなにも素直で、可愛らしい女の子だよ。わかった?』
そんなことない―――と、首を振る優樹。
涙はまだ止まらない。
浩司も優樹の涙を指で拭い目線を合わせる。
そして―――――
『じゃあ、今日から俺と恋愛しようよ。女の子は恋すると綺麗になるんだよ?突然婚約者になったけど、1つ戻って恋人同士。そこから始めよう。』
優樹は涙を拭う。
『毎日、少しずつ、優樹が俺のコトを好きになりますように―――――』
浩司は涙を溜めた優樹の目元に優しいキスを落とす。