たった一人の甘々王子さま
涙を流したあの日以来、優樹は少しずつではあるが男らしさを目指した言動を見直し始め、浩司と向き合うことにした。
しかし、急に女性らしく出来るはずがない。
まあ、とりあえず言葉遣いから始めるか......?
いや、この見た目と態度で言葉遣いが変わるとヘンだよな........うーん。悩む。
次に、『相楽浩司』と言う男をよく見る。
男として決して悪くはないと思う。
上から目線なのだが..........
背は高いし、ルックスも。
結構イケメンだ。
性格は......まだ図りかねる。
体格だって、いい。
やっぱり、憧れるほど。男の身体だ。
何度かあの胸に抱き留められたが、悪い気はしなかった。
むしろ、もう少しこのままで居たいと思ってしまった。
自分も背が高くて、スポーツをやっているのに、相楽浩司と比べると小さく感じる。
アイツは、自分の事を壊れ物を扱うように触れてくる。
そんなに柔じゃないのに。
やっぱり、女扱いしてくれてるのかな?
嫌なところは何処かって聞かれると、まだ知り合って間もないから答えられない。
欠点って?
ムカつくところって?
恋愛しようって言ってくれたけど、断る理由って?
一般的に、建物に表すと『有料物件』っぽいし。あ、表さなくていいか。
恋愛なんて、したことないのに........
初めてするのにあんな出来る男が相手なんて........
どうしたらいいんだろう........
ぐるぐると頭の中で考えては悩む。
隣に居るエミのコトなんてお構い無し。
隣に座るエミは首をかしげる。
こんなに表情が変わる優樹は見たことがない。
いつもは何を考えているか解らないほどクールな優樹だし。
笑顔だって少ない。と、云うか無いかも。
やっぱり、優樹の変わりようは『相楽さんのせいだ。』と、結論出した。
―――――――――――――――――――
お昼休み。
「優樹、一緒に食堂に行こうよ。」
「うん。いいよ。」
「............。」
「え?何?なんかヘンだった?」
エミには、優樹との会話に違和感があった。
なので、思わず動きが止まる。
「ねぇ、優樹。」
「なに?」
ずいっと、近づき優樹の目を見る。
動揺する優樹にお構いなしで更に近づく。
「やっぱり、優樹は変わったよ? 今までの会話のやり取りと違うもん!相楽さんに恋したでしょ!」
右手の人差し指をピンとたてて優樹の顔に触れそうな位置まで持ってくる。
「そっ、そんなことないしっ!」
優樹は後ずさりしてしまう。
動揺しているのがモロばれだ。
「そんなことあるんです!はい、まず1つ。」
エミは、自信満々で語り出す。
「優樹の会話の相槌は、
『ん。』『あ?』『あぁ。』『はぁ?』
と、こんな感じです。」
声真似しなくても........。
しかし、よく見てますね........と、言いたくなるほどだ。
「なので、『うん。』や『なに?』と、答える優樹はおかしい!」
エミさんや........あなたは探偵ですか?
優樹は視線を合わすことが出来ない。
「さて、続きは食堂で―――――」
優樹は自分より小さくて可愛らしいエミに引きずられて教室を後にした。
端から見ると、
『彼女に引きずられる彼氏の図。』
エミの彼氏が俊樹ではなかったら誤解されるところだ。