たった一人の甘々王子さま


「ただいま~腹へったぁ~!」


浩司から渡された合鍵でドアを開けて、優樹は部屋に入る。


浩司はまだ、仕事なのだろうか?
リビングは真っ暗で静だ。


『まぁ社会人だし、海外事業部のエースらしいし、父さんも期待してるんだろうし......』


独り言をいいながら自分の部屋に荷物をおき、翌日の準備。
今の時間は午後9時。


今日も夕方からバスケの練習。その後皆でコーヒータイム。おしゃべり好きのチームメイトに捕まってしまったのだ。


なので、優樹は疲労と空腹で間もなくエネルギー切れ。
速く済ませないと、お風呂に入ったら寝てしまいそうだ。


昼間からエミにからかわれて、どうしようもない胸のざわつきを紛らす為、練習に打ち込んだのだのだから。


「よし、メシ食って風呂入って寝るぞ!」


気合いを入れた優樹はリビングへと移動する。


「今日のメシは何かなぁ~」


と、浴室前の廊下を通り過ぎようとしたとき――――――


『ガラッ――』


浴室手前の脱衣場の扉が開いた。


勿論、開けたのは相楽浩司。
肩にはタオルを掛けて髪の滴をガシガシと拭き取っている。


優樹はその姿を見て固まってしまう。


良く見ると、下はバスタオルを巻いているとはいえ、ほぼ裸だ。
逞しいと思って憧れすら抱いていた浩司の身体を初めて見たのだ。


浩司は廊下で動かなくなった優樹に気がつき、


「あ、優樹お帰り。遅かったね。今からご飯にする?俺はお風呂、先にいただいたよ。」


と、優しく微笑む。


「............。」


優樹は無言。


「ん?どうしたの、優樹。お腹空いたでしょ。ご飯食べよ?」


優樹の背に手をあててリビングへと促す。
が、優樹は固まったまま動かない。


「優樹?」


流石に浩司も首をかしげる。
暫し沈黙があり――――


「ふっ........」


やっと優樹が声を出す。


「ふ?」


何が言いたいのか解らず浩司は優樹の顔を覗きこむと、


「ふ、服......着て....」


顔を赤くした優樹がポツリと呟いて俯く。

< 33 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop