たった一人の甘々王子さま
「ただいま~腹へったぁ~!」
浩司から渡された合鍵でドアを開けて、優樹は部屋に入る。
浩司はまだ、仕事なのだろうか?
リビングは真っ暗で静だ。
『まぁ社会人だし、海外事業部のエースらしいし、父さんも期待してるんだろうし......』
独り言をいいながら自分の部屋に荷物をおき、翌日の準備。
今の時間は午後9時。
今日も夕方からバスケの練習。その後皆でコーヒータイム。おしゃべり好きのチームメイトに捕まってしまったのだ。
なので、優樹は疲労と空腹で間もなくエネルギー切れ。
速く済ませないと、お風呂に入ったら寝てしまいそうだ。
昼間からエミにからかわれて、どうしようもない胸のざわつきを紛らす為、練習に打ち込んだのだのだから。
「よし、メシ食って風呂入って寝るぞ!」
気合いを入れた優樹はリビングへと移動する。
「今日のメシは何かなぁ~」
と、浴室前の廊下を通り過ぎようとしたとき――――――
『ガラッ――』
浴室手前の脱衣場の扉が開いた。
勿論、開けたのは相楽浩司。
肩にはタオルを掛けて髪の滴をガシガシと拭き取っている。
優樹はその姿を見て固まってしまう。
良く見ると、下はバスタオルを巻いているとはいえ、ほぼ裸だ。
逞しいと思って憧れすら抱いていた浩司の身体を初めて見たのだ。
浩司は廊下で動かなくなった優樹に気がつき、
「あ、優樹お帰り。遅かったね。今からご飯にする?俺はお風呂、先にいただいたよ。」
と、優しく微笑む。
「............。」
優樹は無言。
「ん?どうしたの、優樹。お腹空いたでしょ。ご飯食べよ?」
優樹の背に手をあててリビングへと促す。
が、優樹は固まったまま動かない。
「優樹?」
流石に浩司も首をかしげる。
暫し沈黙があり――――
「ふっ........」
やっと優樹が声を出す。
「ふ?」
何が言いたいのか解らず浩司は優樹の顔を覗きこむと、
「ふ、服......着て....」
顔を赤くした優樹がポツリと呟いて俯く。