たった一人の甘々王子さま


この水族館はイルカショーやアシカショーが行われるステージプールに大型画面が設置されていて、迫力がある。


タイミングが良いと隣の遊園地の観覧車からも観ることが出来る。
休日は家族連れや恋人同士に人気のスポットだ。


「ううん、ないよ。......は、初めて来た。」


興奮しているのか、優樹の目がキラキラ輝いている。もう、子供みたいだ。


「ねぇ、浩司。」


「ん?行きたい所決まった?」


「ん。........ペンギンみたい。」


「イルカショーじゃなくて?」


「あ、それも観たい。」


「いいよ、全部観ようよ。」


「やった!ありがと、浩司。」


優樹のこんな笑顔は初めて見る―――――


浩司は、思わず手で口元を押さえる。
にやける顔を優樹に見られたくないのだ。


不意に顔を背けられた優樹は
『ツキン!』
と、痛みが走る。


あれ?なんで?―――――――


開いていたパンフレットを閉じて、手を胸に当てる。


隣に立つ浩司を見上げる。
まだ口元を押さえて何処かを見ている。


優樹は一歩近づいて浩司のシャツを掴む。
そして、ツンツン引っ張って


「―――浩司っ........ホントはこんな人混み来たくなかった?..........帰りたい?」


水族館に来て自分一人ではしゃいでしまった。
その事で機嫌を損ねてしまったのだろうか――――


デートなんて一度もしたことがない優樹はどうしたらいいのか解らない。


今まで水族館に行ったことはあるのだが、男の鎧を纏う優樹は喜んだり楽しんだりしたことが無かった。


いつも冷めた感じで、はしゃぐクラスメイト達を一歩後ろから優しく見守っていたナイト役だったのだ。


『やっぱり自分は皆みたいに浮かれてはダメだ―――――』


フッと涙が滲み、零れ落ちた。

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