たった一人の甘々王子さま
『水族館に来てはしゃぐなんて、可愛すぎ!』
浩司は、緩む顔を隠して優樹から顔を背けた。
『ヤバイ、抱き締めたい。』
折角、優樹と水族館に来たのだから怖がらせるのではなく楽しませなければ..........
まずは、このにやけた顔が戻るのを待って........
浩司が落ち着こうとしていると
『ツンツン』
と、シャツを引っ張られる感覚が――――
引っ張られる方を見下ろすと、今にも泣きそうな優樹と目が合う。
「優樹?どうした?何処か痛いのか?」
通路の真ん中で立ち止まるのも悪いので壁際まで移動する。
問いかけた優樹は返事をせずに首を横に振るだけ。
「優樹?何があった?」
もう一度問いかける。
と、同時に目を閉じた優樹は頬に涙を流す。
「........自分、ばかりが、はしゃぐから........浩司は、つまんない?」
「え? 何故、そんなことを言うの?」
的はずれな言葉が投げ掛けられた。
何処に行こうか話していただけだろ?
それが何故こんなことに?
「........だって、浩司、こっち見てくれないだモン........。」
はぁ―――――
なんだよ、この可愛らしい生き物は。
こんなにも無垢な子、今まで出会ったことないよ。
もう、どれだけ自分を偽って生きてきたんだ?
素直な女の子じゃないか――――
それに、こんなにも俺に歩み寄ってくれている―――――
零れ落ちた涙を指で拭い、
「ごめん、優樹。誤解させたね。俺はね、ペンギンが観たいっていう優樹やイルカショーも観たいって笑顔で話している優樹がとても可愛く思えて........抱き締めたくなって、キスしたくなって..........にやけてた。」
「えっ?」
「こんな人混みでキスなんかしたら優樹に怒られるだろうと思ったし、にやけた顔を見られるのが恥ずかしくて........顔、背けてました。――――以上。」
―――あぁ、恥ずかしい。
まさかこんなことで泣かれるとは思ってみなかった。
いい大人が二十歳の小娘に踊らされてる―――――
『俺って、こんなヤツだったか?』
浩司も優樹と出会って少し変わってきたのかもしれない―――――