たった一人の甘々王子さま
「優樹、起きて。着いたよ。」
地下駐車場に車を止めた。
「う........ん。」
倒したシートで微睡む優樹。本当に疲れたんだろう。まだ眠そうだ。
休みらしい休みもなく、バスケ漬け日々を送っているんだから。
「んー........まだ、眠い―――――」
優樹の瞼はまだ閉じられたまま。
「優樹は晩御飯、要らないの? 俺一人でご飯食べなきゃいけないの?」
少し寂しげに浩司が問いかける。
「―――――――」
無反応の優樹。
『失敗か?』
と、呟いた浩司が次にとった行動は........
ギシッ........と、シートに体重をかけて態勢を変える。
次に、『フー』と一息ついて優樹の耳元へ顔を近づける。
「優樹?ご飯食べに行くよ。起きないと............キスするよ?」
優樹の好きな心地よい声が耳の奥まで届く。
「ひゃっ!」
目を見開く優樹。
顔を上に向けると目の前には浩司の顔が――――
「お?起きた? さぁ、行こうか。」
浩司はそう言ってそっと離れて運転席に座り、ドアを開けて外に出ていく。
優樹は驚いたまま動けない。
きっと、頬は赤く染まっているはず..........
助手席側に回った浩司がドアを開けてくれる。
優樹の心臓は鼓動が早いまま。
「はい、お姫様。参りますよ?」
そっと差し出された浩司の手を見つめる。
左手をドアの縁におき、右手を差し出してくれた。
いつまでも差し出した手を見つめていると、浩司が屈んで優樹をうかがう。
「どうした?行きたくない?」
「あ、ううん。違う。いく。」
相変わらず単語で返事をする。
「そう? はい、手、頂戴。」
浩司は自身の右手を優樹の目の前に。
「う、うん。」
優樹は大人しくその指示にしたがう。
―――――バタン。
と、ドアが閉められる。
浩司は数歩下がってトランクを開けた。
そこには紙袋があり、それを優樹に渡す。
「優樹、パーカー脱いでコレ羽織ってくれる?あと、スニーカーはコレに―――」
袋の中を除くとジャケットがあって、別箱には踵の低いパンプス。
「これから展望レストランに行くんだけど、ちょっとドレスコードがありましてね。俺が選んだんだけど、着て貰える?」
暫し無言の優樹。
ジッと袋の中を覗いている。
その目線を浩司に向けると繋がれた手を持ち上げて、
「手、握ってると無理。」
端的な答えが帰ってきた。
「あ、ごめん。」
言われて気づいたのか浩司が握っていた手を離す。
「ちょっと持ってて―――」
と、紙袋を渡してパーカーを脱ぐ。
それも浩司の腕にかけて袋の中のジャケットと、パンプスを取り出す。
「コレ、女性用だね―――――」
と、言いながら紺色のジャケットに袖を通す。そして、スニーカーからパンプスへ
「コレでいい?」
浩司の前で右左に振り向きながら確認する。
優樹の捻った腰まわりにドキリとする。
『抱き締めたい―――――』
と、浩司が思ったのは言うまでもない。
「うん、いいよ。今日の服装にも似合ってるね。じゃあ、はい。」
トランクに今まで身に付けていた物をしまい、左腕を曲げて肘を優樹に突き出す。
「なに?」
「エスコート。ほら、優樹の右手。」
浩司が優樹の右手を自身の左腕に絡ませる。
「さぁ、行こうか―――――」
浩司にエスコートされて、なれない左側を歩く。
「女の子になった気分だ―――」
優樹はポツリと呟いた。