たった一人の甘々王子さま
「――――怒ってないよ。」
暫しの沈黙のあと、浩司は呟く。
それでも両手は顔の上に置いたまま。
突然、あんな激しいキスをしておいて、怒ってもいいのは優樹の方だ。
それでも、優樹は怒るどころかその逆で不安になり、泣きたくなる。
浩司と過ごすようになって泣き虫になったのだろうか?
動かず話さずの浩司に不安が増し、シャツの裾を摘まんで引っ張る。
「なんでこっち見てくれないの?」
「今は無理。」
「やっぱり怒ってるの?」
「怒ってないよ。」
同じ会話のやり取りが繰り返される。
優樹はどうしたらいいのか考えるが、男性と付き合ったことなどないのだから経験不足で知識などない。
だから、どうすることも出来ず、ただ待つしかない。
それでも、もうこの沈黙に堪えられない。
「――――やっぱり、帰る。」
摘まんでいた浩司のシャツから手を離し、ベッドから降りる。
「優樹!」
すかさず浩司が優樹の右腕を掴む。
ふと見上げた優樹の顔を見ると――――
「優樹?泣いて―――――」
「泣いてない!コレ、汗!」
そう叫ぶと直ぐに顔を反らした。
「ふっ............うっ............」
『やっぱり泣いてる――――』
浩司は起き上がって優樹をベッドに座らせる。
それも、自分の膝の間に後ろから抱き締めるように。
優樹の肩に後ろから額を乗せて、
「優樹は何も悪くない。悪いのは理性を飛ばした俺の方――――――」
浩司がゆっくり語り出す。
「優樹と暮らし始めて3週間位経つよね。俺は、それよりも前に優樹のことが好きだったんだよ。まぁ、優樹は覚えてないけれど........」
「うん。........ごめんなさい。」
「毎日、俺の傍に優樹がいて、男勝りの優樹がだんだん女の子らしく変わっていった。........俺のお陰だったら嬉しいよね。」
「うん。」
浩司が話すことに対して優樹は頷くだけだ。
「前にも話したと思うけど、人ってね、好きな人ができると、更に恋人同士になったらもっと触れ合いたいと思うんだよ。」
「うん。」
「しかし、優樹は初めての恋愛だよね?だから、焦らずゆっくり優樹との距離を縮めていきたいと考えてたんだ。」
「うん。」
優樹の優しい声が心に響く。
優樹は腰に巻かれている浩司の腕に優しく触れる。
「それなのに、ここに来る途中優樹は無防備な寝顔を見せてくれるし、食事中は可愛らしい笑みを見せてくれるわで..........俺の理性、ガタガタ崩れ落ちていったよ。」
「え?」
「........レストランに入ってすぐの廊下で、
優樹が俺の腕に引っ付いてきたでしょ?あの時........優樹の胸がさ、その、ギュッってくっついてね........ヤバかった訳ですよ。
だから、最後の頬が赤くなった優樹の顔を見たらもう我慢が出来なくなって.......優樹の許可もなくあんなキスをした。と、いう訳です。」
「――――。」
「流石にベッドまで来たらマジで止められなくなるから、ちょっと自分で戒めてました。無視する形になってごめん。」