たった一人の甘々王子さま
「じゃあ、ホントに怒ってないの?」
優樹は再度、問いかける。
「うん、怒ってないよ。もし、怒っているなら俺自身に、だね。」
自嘲気味に笑う浩司に、身体を半分捻った優樹が
『チュッ』
と、頬にキスを落とし気持ちを伝える。
「いろんなこと、ありがとうっていう気持ち。」
驚いた浩司が冗談混じりで
「優樹..........無理やり理性で押さえ込んでる俺にそんなことすると―――――今から抱くよ?」
「え?それは..........ごめんなさい。もうしません。」
優樹は離れようとする。が、浩司の腕はそうさせない。
身を縮める優樹に笑って答える。
「ごめん、ごめん。――――よし、お風呂入って寝ますか?明日も休みだし、早起きして出掛けようよ。」
「え?お風呂?」
「そう、お風呂。向こうの扉だよ。優樹が一緒に入って良いなら――――」
「一人で入ってきます!!」
そう叫んで、慌てるように立ち上がり、バスルームへと消えていく。
バタン―――――と、ドアが閉まると浩司が本音を吐く。
「そうそう、まだ逃げててくれなくちゃね。今度近づいたら、ホントに食べてしまいそうだよ..........」
優樹は無防備過ぎる。
もう少し男って生き物をわかってくれると有り難いのだが..........
「はぁ、俺の理性、一晩持つのだろうか..........今まで我慢してきたけど――――同じベッドで寝るの初めてだしな........頑張れ、俺!」
浩司が一人で気合いを入れていたところにバスローブを身に纏った優樹がベッドルームに戻ってきた。
濡れた髪をタオルで拭きながら――――
「お待たせ。お風呂お先です。浩司も入る?」
「あ、あぁ。入ろっかな。」
「うん、いってらっしゃい。」
恋人同士のやり取りに浩司の頬が少し染まる。
一晩、優樹に触れずに過ごせるのだろうか..........
もし、優樹が受け入れてくれたら............
浩司は、始めて恋をするみたいに悩み、バスルームへと踵を向けるのだった。