たった一人の甘々王子さま
優樹は子供時代に悔しい思いをした。
もう、思い出したくもない。
大人からすれば、たわいのないことなんだろうが――――
当時の優樹にしたらとても重大だった。
一卵性の双子なのだから容姿の作りはほぼ同じ。
しかし、性別が違うのだから、成長するにつれて優樹と俊樹に変化が出来てくる。
髪型や服装が優樹は女の子らしく、俊樹は男の子らしく――――。
その変化が出て来た頃に、当時のクラスメイトに虐めまではいかないもののからかわれたのだ。
『優樹と俊樹、見た目も名前も似ているのに優樹の女の格好は変だ!』
『今まで同じだったのにおかしい!』
『ホントは男なのに女の格好をしてる―――!』
その日、優樹は泣きながら帰宅した。
俊樹が慰めようにも聞く耳を持たなかった。
『なぜ自分は女なんだ!俊樹だけ男でずるい!』
泣きながら両親にどなり散らしたこともある。
何度も何度も―――――
性別が変えられないならせめて見た目だけでも....と、それ以来、俊樹と同じものを欲しがった。
服装も玩具も全て―――
言葉遣いや仕草も真似をした。
テレビをみたり大人の男の人をみたりして格好いい男の仕草を身に付けた。
元々声が低めだったこともあり、男らしさが増していく。
父親の会社のパーティーに出向くときは俊樹と色違いのスーツで参加する。
女の子の優樹を生んだ母親の美樹にしたら複雑な心境だ。
しかし、優樹の心の傷を知っているためか今は黙認している。
父親もそうだ。
最近では新入社員に事前説明があるほど。
それくらい優樹が女の子だというのは誰にもバレたことがない。
見ず知らずの人間には『田所家のイケメン兄弟』だと言われるほどだ。
父の会社に取り入ろうとする社長令嬢たちも
『優樹さんと俊樹さんどちらがお兄様ですか?お二人とも素敵ですわ。』
『私、優樹さんともっとお近づきになりたいの。向こうでお話しできますか?』
『上にお部屋をお取りしましたの。今夜、一緒に過ごしていただけないかしら?』
合併したいが為に優樹と俊樹に色目を使ってくる。
一卵性の双子だから似ているのは当たり前。
どちらかといえば優樹はクールで俊樹はマイルド。
話しかけやすいのは俊樹の方だ。
しかし、令嬢たちはクールな優樹もお好みらしい。
誰にも靡かない態度がたまらなく色っぽいようだ。
もちろん婚約・結婚されそうになったことも多々ある。
危ない目に合ったことも。
その辛さは、家族のお陰で記憶の奥底に閉じ込めてある。
トラブルがあったときは俊樹がうまいこと交わす案を出してくれて今のところは乗りきっている。
だから、優樹は弟の俊樹を顎で使う姉ではない。頼りにし、尊敬もする。
俊樹が悩んでいるときは絶対に助けてやりたい。
そんな思いもあり、エミとの恋を取り持ったのだ。
「早くしないと遅刻だ!」
優樹は大学までの道のりを急いだ。