たった一人の甘々王子さま
優樹が去っていった浩太朗の背を見ていると、独り言を。
「アイツ、絶対優樹に惚れてたな........まぁ、絶対に渡さないけど。」
小さな不安から逃れるため、後ろから優樹を抱き締めた。
突然の温もりに優樹も頬を染める。
「浩司って、凄いね。」
思いもよらぬ誉め言葉に次の句が出ない。
「実はね、俊に言われたことがあるんだ。」
優樹は抱き締められながら、俊に言われた言葉を思いだし浩司に告げる。
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優樹が男らしくなって数年が経った頃、浩太朗との出会いがあった。
浩太朗は、直ぐに優樹が女だと気づいた。
親同士は仕事の付き合いもあるので、子供である優樹と浩太朗も顔を合わせる機会が増えていく。
お互いに共通の趣味、『バスケ』があり、なお親近感がでる。名前で呼び合うまでに時間はかからなかった。
浩太朗は、女だからと差別をすることなく、男らしく振る舞う優樹を気にすることなく受け入れて接してくれた。
そんな二人をすぐ傍で見ていた俊樹が、
『浩太朗は優樹の事が好きなのかも。』
と、言い出した。
もちろん、恋愛なんてしたことがない優樹はその言葉を信じないし、受け入れなかった。
浩太朗も、この関係を壊すような言動をしてこなかった。
だから、浩太朗が、自分を好きになるなんて微塵も思っていなかったのだ。
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「えっと、浩司が心配することないよ?」
浩司の腕をキュッと掴んで、優樹は伝える。
そう、もう自分は浩司に恋しているんだから。初めての恋を。
自分を女の子にしてくれて、幸せを与えてくれた浩司から離れるなんて出来ない。
「もう、浩司が好きって気がついたんだ。 いつか、亡くした記憶を思い出すから何処にも行かないでよ?」
耳まで赤く染めながら話す優樹が可愛くて、浩司はそっと腕をほどく。
そして、優樹をクルッと回転させて
「俺は何処にもいかない。優樹こそ、ずっと傍に居てよ?」
こめかみに軽いキスを落とした。
「流石に、お店の中では激しいキスは出来ないよね?続きは家に帰ってからね。」
おふざけっぽく、答えた浩司。
「さあ、買うものは以上かな?まだ店内を物色する?それとも、次のお店に向かう?」
明るく切り返して、優樹に答えを求める。
「......練習着みたいから、もう少し回る。良い?」
「もちろん。」
上目遣いの優樹がまた可愛い。気分が軽くなる。
もう暫く、二人の買い出しという名のデートは続くのだった。