たった一人の甘々王子さま
優樹の買い出しが終わり、次に向かったのはジュエリーショップ。
『恋人の証が欲しい。』
と、言い出したのは浩司の方で、優樹は
『男が指輪を欲しがるなんて!』
と、驚いた。
だが、浩司はさらに優樹を驚かす発言をする。
「さて、結婚指輪を買いますか?」
これには優樹も目が点。
驚きで捲し立てるように言葉を放つ。
「まだ早い!婚約しただけ!」
『それに、婚約指輪もらってないし........』
最後の言葉は囁くように......
そんな優樹を微笑みながら、
「あ、ごめん、まだ渡してなかったね。実は、婚約指輪、用意してあるんだよ?」
浩司はさらっと答える。
「なんだよ、あるんじゃん。指輪なんて安くないだろう?もう買わなくて良いよ........。自分、試合があるし指輪なんて付けれないよ?」
ちょこっとほっとした優樹は、その気持ちがバレないようにいつもの口調で気のナイ振りをする。
浩司は帰ろうとする優樹の腕を掴んで引き留める。
「優樹。俺たち、大事なところを飛ばして婚約しただろう?だから、婚約前の恋人の証であるペアリングが欲しいんだよ。これなら指ではなく、此処にある鎖に通してネックレスとして身に付けていいし。」
「浩司........」
「シンプルな指輪にするからさ。ね?」
確かに、突然出会って(浩司にしてみれば再会なんだけど)、昨日やっと結ばれた。
普通の恋人なら、お揃いの指輪くらいしてるか。
浩司に巧く説き伏せられて納得していく。
店内に入ったとき、
『優樹は基本、素直だよね。やっぱり可愛い。』
そっと浩司が呟いたのは、優樹には秘密。
『自分には縁の無いものだと思っていたから変な感覚だな。』
なんて、優樹が考えていると浩司が声をかけた店員がいくつかのペアリングを持って来た。
「今年人気のデザインは此方の左端で、真ん中は最近人気のデザイナーの作品ですね。そして、右側のが海外セレブに人気のデザイナーの作品ですね。」
店員のおねーさんが色々と説明をしてくれる。優樹はその話を聞けなくなった。
優しく語るおねーさんの視線が浩司へ向けられている。そして、ふと、優樹と目線が会うと見下すような視線に変わる。
浩司がおねーさんに語りかけると頬がほんのり赤くなり、また案内をはじめる。
優樹は、指輪よりもおねーさんの視線や態度が気になり、居心地が悪く感じた。
「優樹、どれが良い? 他のも見たい?」
あれこれと説明を聞いた浩司が優樹に問いかける。
店内をくるりと見渡すと、離れたところに居るおねーさん達も浩司へ視線を投げ掛けているのがわかった。
『目がハートになる。』とは、こういうことか?今まで解らなかったものが急に気になり出してムカムカする。
これ、なんでだ?
もう、此処にいたくない。帰りたい。
「おねーさんのおすすめね、いいと思うよ。でもさ、やっぱり要らない。もう、帰る。おねーさん、ありがとう。」
先程買った買い出しの袋を浩司からの奪ってお店を出ていく。
一分でも、一秒でも早くこの場から立ち去りたい。
なんで、おねーさんたちはあんなにも浩司を見てるんだか!
なんで、おねーさんたちはあんなにも怖い目を自分に向けるんだか!
一応、カップルですけど!
一応、お客ですけど!
優樹は段々と悲しみから怒りの感情に包まれていった。