たった一人の甘々王子さま
「優樹!」
浩司が一人で歩き出す優樹に追い付いた。
が、浩司の声を聞いた途端
「来んな!エロ大王!」
そう言葉を吐き捨てて、人混みを避けて走り出した。
「ちょ......優樹!」
浩司の呼び掛けに答えず、
「バスケ部、舐めんな!」
と、叫びながら。
優樹はエスカレーターを避けて階段で逃げる。
階段は利用客も少なく、飛び降りる事ができるからだ。
その分、時間稼ぎができる。
一階まで降りたとき、優樹の動きが止まった。
「ハッ......ハァッ......なんで、居るの......!」
優樹の目の前には浩司が居た。
「タイミング良く階段横のエレベーターが来てくれてね。優樹なら一階に降りると思って先回りだよ。」
浩司は『作戦勝ちです。』と、言わんばかりの笑顔だ。
「なに、先回りしてんの? おねーさんと仲良くしてればいいじゃん!笑顔振り撒いてさ! お店のおねーさん、みーんな浩司ばっかり見てたじゃん! さすがエロ大王!」
優樹のモヤモヤが吐き出た。
こんなこと、言うつもりなかったのに。
勝手にイライラしたのは自分なのに。
浩司はただ、『証』を身に付けようって言っただけなのに。
「優樹、おいで?」
両手を広げ、優樹に近づいて来くる。
浩司には、もう解っているのだ。
優樹のこの行動の原因が。
まさか、こんなにも早くぶつかってくるとは思いもよらなかった........
と、言うつもりはない。
そう、確信犯なのだ。
業と、仕向けたのだ。
優樹がヤキモチを妬くように。
浩司も馬鹿じゃない。
自分のルックスが程よく良いとは思っていた。まぁ、好みは色々あるので万人に受け入れられるとは考えていない。
だが、大抵の人からは
『カッコいい』
と、言われる位置に居るのはわかっていた。
だから、優樹にヤキモチを妬かせるなら女性店員が居る店が丁度良かったのだ。
「来んな、エロ大王........」
優樹は悔しいのか涙目だ。
その顔すら浩司には愛おしい。
「もう、買い物はしない。 帰るよ?」
「エロ大王......来んな......」
浩司が近づいても優樹は暴言を吐くだけ。
その場に立ち竦むだけで逃げないから直ぐに捕まった。
「触んな、エロ大王........」
涙が頬を伝う。
指で優しく拭ってくれる。
それでも涙は溢れる。
「指輪なんて要らない。 お店なんか行きたくない。 こんなの、やだ。」
優しく抱き締められて、やっと素直になれた。
「優樹、帰ろっか?」
「........ん、帰る........」