たった一人の甘々王子さま
あれから、泣き止んだ優樹と駐車場へ戻ると、車をマンションへと走らせた。
助手席に座る優樹は、泣き疲れて寝てしまった。
軽くシートを倒して、眠りにつく優樹に
『妬いてくれた優樹も可愛かったな。』
と、浩司は思っていた。
優樹は意図してやっていた訳ではないのだが、ヤキモチを妬かされた方とすれば面白くない。
で、ヤキモチを妬いてほしくてやり返した。
『子供じみた行為だな』と、思い返すと苦笑い。
まさか、こんなにも的面するとは思いもよらず........
今まで経験がなかったから、解らず仕舞いかも?なんて懸念もあった。
が、結果を見ると成功だ。
こうも巧く作戦が填まるとは思わず、顔が綻ぶ。ヤキモチを妬かれるのがこんなにも嬉しいとは思わなかった。
マンションに到着。
荷物を持ち出しやすいように纏めると、優樹をお姫様抱っこする。
わざわざ起こす必要もないので寝かせたままだ。
背の高い優樹を抱き止めるなんて余程体力に自信がないと出来ない。
浩司の男らしさを観ることが出来ない優樹は残念だろう。
エレベーターの前に着いたとき、ゆっくりと優樹の目が開いた。
「ん、どこ?おりる........」
浩司の首に腕を回し身を捩る。
「あるく......おりる....」
半分は寝ぼけているのだろう。
声も甘えた感じだ。
浩司はゆっくり下ろす。
優樹は、床に足がついても浩司に引っ付いたままだ。
エレベーターも、もうすぐ来る。
防犯カメラの映像がドアの横に設置されていて、エレベーター内の映像が写し出されている。
視線を向けるとそこには居住者の姿が。
『この体勢は、ちょっと見られたくないな。』
エレベーターは7階にいる。
到着まで、もう1分もない。
無理矢理離そうとすると逆に強く引っ付く。
『離れないもん。』と、言わんばかりに。
「優樹。水族館で買った抱き枕、持てる?」
「ん、持つ。」
やっと優樹が離れ、抱き枕を抱がえた所でエレベーターが着いた。
『こんばんは。お帰りなさい。』
『こんばんは。お気を付けて。』
居住者との挨拶を交わし、エレベーターに乗り込む。
浩司は優樹の腰を抱き寄せる。