たった一人の甘々王子さま
『ポン』
と、エレベーターが目的地に到着したことを知らせる。
「優樹、おいで。いくよ?」
「ん........」
抱き枕をギュッと抱き締めたまま頷いた。
ゆっくりした足取りだが玄関前に。
鍵を開けて、中に入る。
優樹を先に通してからドアを閉める。
浩司が声をかける前に、優樹はパンパスを脱いで廊下を歩く。
そのまま自分の部屋に入りそうだったので、
「優樹?今夜からこっちで寝るよ。」
そっと腰に手を添えて初めてこの部屋に訪れた日に見せた寝室へと連れていく。
優樹は嫌がることなく付いていく。俯いてはいるが........
「浩司......今、何時?」
突然、ベッドに腰かけて聞いてきた。
「6時、回ったところかな......」
買ってきたものを床に置きながら答えて、浩司も優樹の隣に座る。
優樹は浩司の顔が見れない。
が、浩司は優樹の顔を除き見る。
「優樹、こっち見て。」
「......ヤです。」
会話が平行線になりそうだ。
『まず、事の発端から話してみるか。』
と、浩司は少し間を空けて、
「優樹、俺にヤキモチ妬かせたの気がついてる?」
「え?嘘、いつ?」
浩司の質問に目が覚めたようで驚く優樹。
まぁ、そうだろうな。
そして、つられて此方を見た。
優樹に気づいてもらいたくて、更にヒントを出していく。
「野崎財閥の次男と会ったとき。」
「え?コータロー?」
優樹はやっぱり解っていない。
無垢なんでしょうが、無知な小悪魔とも言える。
「まず、優樹のこと呼び捨てなのも腹が立つ。あと、優樹が彼のことを下の名前で呼ぶことも、イヤだ。」
自分が妬いた理由を語る。
「ごめんね?」
優樹が謝ってきた。
何故、疑問系だ?
「優樹、解ってる?この件に関して、改善策はあるの? 俺、次は耐えられないよ?」
浩司もヤキモチがこんなにもすごいなんて思わなかった。
浩司自身、
『俺って、独占欲強かったんだな......』
と、驚くばかりだ。
優樹もそんな浩司の不機嫌さがわかったのか、
「うん、野崎のボンには俊に協力してもらう。 呼び方、気を付ける。」
と、すぐさま言い方をかえた。
「うん。頼むね。」
浩司も短く返事をする。
折角、優樹が善処したのだから浩司も謝る。
「俺の今日したことは、仕返しみたいなもので........優樹にヤキモチを妬かせました。ごめんな?」
すまなそうな顔をして、優樹の頭を撫でる。
優しい口調が本当にすまないと思っているってわかる。
優樹も浩司のヤキモチが嬉しかった。
自分の事を想ってくれていると感じたから。