たった一人の甘々王子さま
6 トラウマの原因
とある金曜日。
書斎で仕事を済ませた浩司は、手帳を見ながら眉間に縦皺を作っていた。
以前話したバスケの試合が行われる二週間前に当たる今週末。
優樹の合宿が予定表にねじ込まれたのだ。
当初、予定されていなかったがここにきて急遽、合同合宿が行えるようになったのだ。
どうやら、コーチの『つて』で参加できることに。
コーチに聞いたら、
『現地の利用する施設も大きいこともあり、主で仕切っている大学側から連絡がありましてね。あ、実は、私の知り合いなんですよ。』
との事で、優樹達のチームも参加させてもらえる事になった。
この話がきたのは本当に急で、二十日前。
その日以来、浩司は手帳を見る回数が増えた。
同棲を始めてから、どちらか片方が『外泊で家を空ける』なんてことは今までなかった。
まぁ、浩司が日帰り出張で帰宅が遅くなることはあったのだが。
優樹は勿論、楽しみにしている。
夕食、入浴を済ませ、今はせっせと合宿準備をしている。
浩司と買い出しにいったときの品も詰め込んでいる。
それも、笑顔で。
時折、鼻歌交じりで........
『パタン』と、手帳を閉じ優樹の部屋へ行く。
ドアが開いているとはいえ、ノックして存在を知らせる。
「コンコン―――優樹、ちょっといい?」
「ん?いいよ。なに?」
ドアに立つ浩司に背を向けたまま返事をする。荷物の前でニコニコの優樹。遠足前の小学生か?
「忘れ物、ない?」
「ん?大丈夫かな。」
優樹は最後にタオルを仕舞い、鞄のチャックを閉めて『よし、オッケー!』と準備を終えた。
そんな優樹に少しヤキモチの浩司。
「優樹、俺のお守りも持っていって欲しいんだけど........」
浩司は座り込んでいる優樹の後ろから抱きついた。不意に抱き締められて『ドキリ』とするも、嬉しくて口角が上がる優樹。
「あ、そう言えば言ってたね。 今回は試合じゃないよ、なのに良いの?お守りもらっても。」
顔だけ振り向いた優樹が聞いた。
振り向いた先は目の前に浩司の顔。
その顔がニッコリと笑うと、
「泊まりで出掛けるなら、絶対に必要なんだよ。よっと......」
優樹の身体が浮いた。
浩司が背中に左腕を回し、優樹を軽く倒して膝裏に反対の腕を通し、お姫様抱っこしたのだ。
「優樹、移動するよ?」
「ん。」
そのまま優樹の部屋を出て、隣の寝室へ向かう。
最近の優樹も浩司のお姫様抱っこに慣れてきた。抵抗しても無駄だと分かったからかもしれないが、今では浩司が抱き上げるとすっと腕を首に回し、浩司の首元に頬を寄せて甘える。
その仕草が浩司にはとても嬉しいのだ。
少しずつ優樹の女の子らしい仕草が見られるようになり、堪らなく愛おしい。