たった一人の甘々王子さま
翌朝。
優樹は欠伸をしながら出発準備中。
「........此方のバッグに入れとけばいっかなぁ。」
「あ、スマホの充電器入れ忘れた!」
「よし、完璧!じゃ、浩司......」
優樹は荷物を玄関に運びながら、リビングで不貞腐れながらコーヒーを飲む浩司に声をかける。
実は、昨夜の情事中に浩司の休日出勤の連絡が来たのだ。
しかも、電話で。
愛している最中の電話なので初めは無視していた浩司。だが、余りにも呼び出しが続くので対応した。
それが、今の状態を作った。
電話に出た後の浩司は、悲しさと怒りが混じっていて........優樹はこれでもかというくらい求められて寝不足だ。
然り気無く合宿先へ優樹の様子を覗きに行こうと企んでいた浩司には嬉しくない週末。
「ちょっと早いけど、行ってくる。時間出来たら連絡する。メールでも電話でも。」
「........足りない。」
「え? なに?」
「優樹が足りない......」
「はぁ? なに言ってんだよ!もう、散々しただろ? 浩司のせいで眠みーよ!」
甘えてくる浩司なに呆れて、付き合いきれない。
溜め息も出る。
口調もキツくなる。
昨夜の女の子らしい優樹はどこへやら。
「浩司も仕事なんだろ? ウダウダしてないでさっさと出勤準備しろよ! 海外事業部のエースなんだろ? 仕事仲間が今の姿見たら呆れるぞ?」
「......優樹が、冷たい。」
数時間前まで甘い声で啼いていた優樹がいつものような男前優樹になり、浩司の気持ちは萎んでいく。
「冷たくねーよ! それに........夜は、暖かかっただろ? ったく、一緒に寝たんだしさ........。 じゃあ、マジで行くよ?」
優樹がリビングを出ていこうとしたとき、
「優樹、お守りちゃんと着けててよ。」
浩司が声を掛けた。
優樹が振り向くと、仔犬のような浩司がいた。
そんな浩司が可愛く思えて、浩司の傍まで戻る。
そして、浩司の顔を両手で挟んで上を向かせ、
「練習以外はちゃんと此処に嵌めておくよ。」
と、左手の薬指を指差して答えた。
もちろん、いまもその指に填められて輝いている。
『浩司も同じところに指輪すれば安心するんじゃない?』
なんて、言ってみたり。