たった一人の甘々王子さま
浩太朗とグラウンドに戻ったあと、楓先輩が優樹に声を掛けてきた。
「優樹くん!ごめん、ちょっと手を貸してくれる?」
「楓先輩、どうされたんですか?」
体育館から走ってきたであろう先輩は息切れをしている。
「り、涼子ちゃんがね、体育館前の階段で他校の生徒とぶつかって転げ落ちちゃって........」
そこまで聞いた優樹は走り出した。
浩太朗も一緒に。
『涼子先輩、無事でいてください!』
優樹は心から祈っていた。
階段下に数人の人が固まっている。
その中に篠沢智もいた。
「すみません、通してもらえますか?」
優樹は涼子先輩の傍に駆け寄る。
涼子先輩は頭から落ちたのだろうか、上下逆で足がまだ階段の上に乗ったままの状態で倒れていた。
「先輩?涼子先輩?優樹です。聞こえますか?」
まず、耳元で声を描けて呼吸があるかの確認をする。
まだ目を閉じたままだが呼吸は確認された。服の汚れや手足の擦り傷具合で結構な高さから転げ落ちたのだろうと思われる。
「すみません、救護室に医師か看護師はおみえですか?あと、担架はありますか?もしなければ救急車を呼んでください!」
「私、救護室に行ってくる!」
楓先輩が走っていった。
頭だけは動かさないように注意を払って、骨折していないか涼子先輩の身体を触っていく。
「おい優、何やってんだよ!」
声をかけてきたのは優樹より先に此処にいた智だった。
先に此処に居たヤツ。
何にもしてくれなかったヤツ。
ただ見ているだけのヤツ。
怒りが沸き起こり、優樹は智に逆ギレだ。
「何も出来ないヤツは黙れよ!気が散る! 自分は救命講習を受けて資格もってんだよ!」
優樹が見る限り骨折はなさそうだ。
額から出血しているからやはり頭は打っていると思われる。だが、思うほど出血していない。
涼子先輩なりに頭だけは守ったんだろう。
その代わりに付いた腕の傷が事の酷さを物語っている。
頭を打っていて、出血をしているなら脳内は大事にはならないだろう。頭を打って、出血しない方が心配なのだ。
優樹の気持ちに余裕ができる。
と、そこに楓先輩の声が響く。
「優樹くん、救護室の先生連れてきたよ!」
「はい、ちょっと失礼。」
30代だと思われる男性医師が診察をしてくれる。
「はい、はい。野次馬は立ち去ってね~診察の邪魔。えっと、君と君は同じ学校の子?救護室に一緒に来てくれる?」
涼子先輩を診てくれた医師らしき人は楓先輩と優樹を指差した。
「はい、わかりました。」
「じゃあ、君と、そこの君担架で彼女を運ぶから手伝ってもらえるかな?」
優樹と立ち去ろうとした浩太朗が医師に指名される。
「担架で運ぶなら男手がいるでしょ?俺は診察があるから、運ぶのは任せる。」
「わかりました。じゃあ、コータロー、涼子先輩の頭部側頼む。できるだけ動かさないように。」
「あぁ、わかった。......せーのつ。」
医師を先頭に、コータローと一緒に涼子先輩を担架で運ぶ。楓先輩は涼子先輩の手を握って隣を歩いていく。