たった一人の甘々王子さま
「自分は、話すことない。」
浩太朗のシャツを掴んで身を縮こませる。
智は諦めず、優樹に近づいてくる。
『怖い!』
優樹は身を小さくし震えている。
それに気づいた浩太朗は
『やっぱり大丈夫じゃねーな。智と二人にするのは不味いか......』
と、判断して
「智、待てって。」
浩太朗は優樹に近づいてくる智を止める。
「浩太朗には関係ねーよ。」
智は浩太朗を睨み付ける。
そんな智に浩太朗は呆れ顔だ。
「優のことは、合宿前に俊から頼まれてるんだよ。お前も会っただろ?優の双子の弟。それに、そんなにがっつくと優の旦那に殺されるぞ?」
「は?旦那が居るのか?」
浩太朗の言葉に智は驚く。
二の次の言葉がでない智に浩太朗は話を続けていく。
「優と話したいのもわかるが、おまえのせいで受けた傷が今も残ってるんだぜ?いくら子供の頃の他愛のない言葉だったとしても、優は傷ついたんだ。それも、女性として生きることすら出来なくなるほどだぞ。」
智は黙ったままだ。
逸らした顔はどこか悔しそうだ。
特に、当事者ではない浩太朗にここまで言われたのだから、あまり前か。
「智、優に謝りたいのなら今しかないぞ?お前のために、今回のこの合宿があるんだからな。」
「は?俺のため?」
智が浩太朗を見た。
もちろん、驚いたのは智だけではなく優樹もだ。
「優の大学は今回の合宿に参加する予定はなかったんだよ。な、優、そうだろう?」
浩太朗の問いかけに頷く。
「あ、あぁ。突然決まった。」
「此処の施設さ、野崎グループのモノなんだよね。それに、優の大学のコーチは俺の親戚。」
「「え?」」
優樹と智の声がハモった。
浩太朗がプッと吹き出す。
「実は、優が結婚するのに心の奥底に封印するくらいのトラウマを抱えたままだと相手に悪いって俊から相談受けててさ。
で、今回巧いこと事が運ぶようあちこちに協力要請してたんだよ。」
浩太朗は続ける。
「智もいい加減大人になろうぜ?いつまでも昔の恋引きずってないでさ。ほら、最後のチャンスだぜ?」
そういって、背中に隠れている優樹の手を取り智の前に引っ張り出す。