たった一人の甘々王子さま
7 消えた記憶の訳
優樹は合宿から帰宅した。
午前中まで練習して、3時頃に宿泊施設を出発。
途中、高速のサービスエリアで休憩。
この時、浩司に連絡したら丁度仕事が終わったところだった。
『あ、浩司?あのさ、今、サービスエリアなんだ。大学へはあと1時間で到着するみたい。』
『うん、わかった。俺も終わったところだから車で学校まで迎えにいくよ。』
『え?いいよ、浩司も疲れてるんだし。マンションで待ってて。すぐ帰るから。』
『優樹、遠慮しないの。俺が迎えにいきたいんだから、ね?』
そう言って、電話を切った。
バスが大学に到着したら、優樹は浩司の車を見つけた。
『本当に迎えに来てくれたんだ。』
優樹は嬉しくて微笑んだ。
前日も遅くまで仕事で、今日も午前中に取引先に行くって言っていたのに........
浩司の優しさに心が弾む。
バスは大学の体育館前に停まった。
前の座席から順番に降りていく。
家族や恋人に迎えに来てもらう仲間も沢山いた。
優樹もバスを降り、来てくれた浩司の姿を見つけるとチームメイトに別れを告げて駆け寄った。
そして、
「浩司、ただいま。お迎え、ありがと。」
笑顔でお礼を言うと『キュッ』と浩司の服をつかんで、胸元に額をコツンと引っ付ける。
そんな可愛らしい仕草の優樹に驚いた浩司は嬉しくて、そっと優樹を抱き締めた。
「優樹、お帰り。頑張ったね。あ、そうだ。『お守り』役にたったかな?」
優樹の髪にキスを落として質問する。
すると、優樹の顔は真っ赤になり、
「......もう、すぐバレちゃったよ........着替えの時とか、お風呂の時とか..........もうやめてよね?すっごく恥ずかしかったんだよ?」
浩司を見上げて口を尖らせて訴える優樹に思わず『チュッ』と、触れるだけのキスをする浩司。
「男避けのお守りだからね。これからも、俺が守れない所に行くときはたっくさん付けます!」
「は?ちょっと、恥ずかしいからヤダ!それなら出掛けれないよ!」
優樹は浩司の胸に顔を埋める。
「優樹、恥ずかしいって........お守りだよ?
それにね........」
一息おいて優樹の顔を上に向ける。
そして、ニヤリと微笑み、
「ここで、俺に抱きついている方が皆に見られて恥ずかしいと思うよ?」
『ほら見て?』
と、優樹の後ろを指差す。
そこにはバスから降りて、たむろっている仲間がまだ沢山居たのだった。
皆に次々にからかわれていく。
「最近の優樹くん、可愛くなったから、もしかして?って思ったのよね!」
とか、
「相変わらず格好いいんだけどね~どこか雰囲気がね、変わったのよ。」
なんて言われて、
「彼女ができたかと思って心配してたのよね~」
要らぬ心配も、
「女は抱かれると艶が出るのよ?」
本当ですか?っていうか、誰ですか?そんなことを言うのは!
「優樹くん、ラブラブね! あ!あの痕、
やっぱり?ご馳走さま~」
と、彼氏さんの車で帰っていく楓先輩にも叫ばれてしまった。
「こ、浩司っ! 帰る! もう帰る!」
慌てる優樹の顔は真っ赤なトマト。
浩司にとっては可愛くて仕方がない。
こんなに可愛い優樹が堪らなく愛おしい。
浩司は更に強く優樹を抱き締めた。
「そうだね、帰ろうか?優樹のこと愛しすぎてもうダメ。優樹切れ、今すぐ抱いて充電しないと........俺、死んじゃうね。」
「うっわ!恥ずかしいっ!こんな所で声に出すな!」
浩司の甘い言葉に耐えきれず、優樹はパニック寸前。段々といつもの口調に戻っていく。
浩司の顔は口角が上がって笑顔だ。
「もう、車どこ?帰るよ!」
優樹の可愛い顔が河豚になったので、浩司はまた笑ってしまった。
車のなかでも優樹は河豚。
『もう帰る』と言う優樹が真っ赤な顔をして恥ずかしがっている姿が可愛くて浩司は誂(カラカ)う。
まあ、それが、河豚になった原因。
浩司の優樹に対する愛情は、日に日に増していく。その逆も感じられる。
その愛情で優樹の心が解されて、丸くなっていく。
このまま素直に愛情を受け入れて笑い続けて居てほしい。
浩司は心の底からそう思うのだ。
特に、今回の合宿で幼い頃のトラウマも改善されていったのだから。
実は、トラウマも含め優樹の過去について、浩司は俊樹から話を聞かされていたのだ。