たった一人の甘々王子さま
同棲が始まってすぐの頃、俊樹から『会って話がしたい』と連絡を受けた。
俊樹の方が会社に出向くと言うので、言葉に甘えて残業が少ない日を選び会議室にて場を設けた。
話の内容も、『優樹と付き合うならば知っていて欲しいことがある』というのだ。
社長から話があってもいいくらいの内容だと思ったのだが、俊樹から話したいと言われた。
仕事にキリをつけて、会議室へ向かう。
既に俊樹は到着しており、挨拶もそこそこにすぐに話が始まった。
まずは、田所家と相楽家の始まりから。
実は、浩司の曾祖父と俊樹の曾祖父が学生時代の友人だったのだ。
お互いに切磋琢磨しながら働き、会社を起こした。
田所と相楽の付き合いはここからだと。
数年後、浩司の祖父が事業拡大するときに俊樹の祖父が援助した。
その、浩司の祖父が立ち上げた会社の創立記念パーティーが、浩司と優樹のはじめての出会いだ。
『俺たちが4歳の頃、浩司さんの実家が主催した創立記念パーティーでの顔合わせが初めてですよね?』
『そうだね。俊樹くんは覚えていたんだね。』
『えぇ、俺は覚えてます。とても大きなホテルでパーティーが行われましたからね。記憶にも残ります。』
『でも、優樹は忘れていたよ........』
浩司は少しだけ寂しげな顔をした。
『浩司さん、実は........』
俊樹が浩司を見つめる。
『そのパーティーから数日後、......優樹の、一回目の誘拐がありました。』
俊樹の言葉に浩司は動きが止まり、再度確認する。
『誘拐だって?』
『えぇ。まぁ、よくある逆恨みですよね。あのときの優樹は終始、浩司さんに相手をして貰っていましたが........覚えてますか?』
『あぁ、覚えているよ。可愛らしいドレスを着てたね。』
『その二人の姿を見た、まぁ、犯人ですよね。そいつが優樹のことをあなたの妹だと思ったようです。』
俊樹は淡々と会話を続けていく。
『田所としても、相楽家が関係しているとは思わなかったのですが、すぐに相楽家から連絡が入り、両家の祖父母、うちの両親、相楽の父の間だけで情報共有していたそうです。』
『俺の母親は知らなかったのか?だから、子供の俺たちも知らないはずか........』
浩司はソファーに凭れて天を仰ぐ。
俊樹は話を続けていく。
浩司の母は、からだが弱かった。
優樹の話をすることで体調を崩し、入院することになっては申し訳ないと田所家の意向で伏せることになったのだ。
子供たちにも内密にしたのは、母親と接触しているうちに勘づかれでもしては......と、先読みをしていたためだ。