たった一人の甘々王子さま


『此処まで、結構辛い内容でしたけど次の話はどうされますか?次回に持ち越します?』


俊樹の問いかけに、


『いや、お願いするよ。』


ここまで聞いた浩司も覚悟を決めている。



次の事件について俊樹が語りだす。


『浩司さんが優樹と出会う前ですよ、2回目の事件は..........』




あの日、お互いに中学を卒業して春休み期間中の出来事だった。
久しぶりに二人で出掛けていた時のこと。


もう既に俊樹と変わらぬ格好をしていたので、見知らぬ人は双子の兄弟に見えていたはず。


『俺と優樹は中学から別々の学校だったのはご存じですよね?』


『あぁ、知っているよ。理由までは知らなかったけどね。』


『俺が全寮制の学校だったので長期休暇の時にしか家族に会えなかったんです。その日は思いきって二人で出掛けたんです。普通のきょうだいだと性別が違えばあり得ないと思いますが、双子で優樹があの性格と見た目になりましたからね........ほんと、男兄弟と変わらないですよ、俺たち。』


クスリと笑いながら俊樹は話す。
よく見比べるとほくろの位置とかで解るんですよ........と、付け加えた。


『実は、あのときの俺........ストーカーがいたんです。..........俺も知らなかったくらい計画的に事が進んでいました。』


俊樹の声が変わり俯いていく。


『まさか......ってことが起こったのかい?』


浩司が問いかけると、俊樹は


『そうです。浩司さんの想像通り。優樹が俺に間違われて連れ去られました。』




ことの次第はこうだ。



俊樹の通う学校にとある企業の社長令息もいた。その生徒には年子の妹がいたのだ。
この事件は、その妹の独占欲による犯行なのだ。


その社長令息は2年の時に俊樹と同じクラスになった。
1年間、クラスメイトとして仲良く生活していた。学校行事の時は一緒に写真を撮ることも。
お互いに跡取り息子ということもあり、仲良くなったのかもしれない。



3年生の夏、その社長令息は実家に帰宅した。
それまで撮影した写真も一緒に持ち帰り、家族に見せて学校生活を語っていたそうだ。
もちろん、両親以外に妹も。
その妹が、兄と俊樹が一緒にいる写真を見て一目惚れしたのだ。


兄は、俊樹には想い人が居ることを聞いていたので、仲を取り持つことを拒否した。
大事に育てられた社長令嬢は、自分のお願いが受け入れられないと我が儘な難題をぶつける性格だった。
『必ず俊樹を手に入れる!』と、熱り立ち、兄の制止も振り切って家の権力を使い俊樹の情報を得ていた。


『いつか、必ず、俊樹を自分のものに......』


と、考えていたお嬢様は兄に内緒で裏で動いていた。
そして、「自宅への強制連行」を実行したのだ。


自宅のボディーガード数人に協力させた。
そして、行動を起こしたのが優樹と二人で出掛けたあの日だった。


出先で俊樹と優樹が待ち合わせしたところから張り込みをして様子をうかがっていた。連れ去るときを見計らっていたのだろう。
しかし、連れ去られたのは優樹の方だった。


相手側はまず、刃物で優樹を脅した。
すぐさま優樹も抵抗したので薬で眠らせて車に連れ込んだ。
車内ではお嬢様が待っていて、すぐに屋敷につれていかれ軟禁状態に。


『薬から覚めた優樹は出来るだけ抵抗し逃げようとした......が、足をヤられたんです。逃げられないように......』


『俊樹くん、ヤられたって............』


浩司は俊樹の言葉尻に被せて質問する。

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