たった一人の甘々王子さま
しばらく無言で湯船に入っていた。
会話がなくても、浩司は優樹の身体を抱き締めて撫でている。
時折、優樹の身体を弄っていたが。
『そろそろでないと自分まで逆上せてしまうな......』
浩司は優樹に声をかけた。
「優樹?もう上がる?もう少し浸かってる?」
「――――。」
優樹の返事はない。
もう一度、声をかける。
「優樹? 俺、もう出るよ?どうする?」
優樹は浩司の胸に頭を預けて俯いている。
悪戯心も働いて、優樹の胸に手を添えて軽く揉んでみる。
が、反応なし。
「優樹?寝ちゃったの?」
浩司が優樹の頭を傾けて見ると、可愛い寝顔と対面した。浩司に包まれた安心感でこの表情なのかもしれない。
合宿での疲れと浩司に愛された疲れとが合わさって今の眠りに繋がるのだろう。
「本当に寝てる........ゴメン、優樹。激しく抱きすぎたね。」
さて、このままでは二人とも風邪を引いてしまう。
「優樹、出るよ。」
お姫様抱っこした優樹と湯船から出る。
浩司はまず、バスルームを出て洗面台にバスタオルを敷いた。
その上に優樹を座らせる。
壁際に座らせたので頭と上半身をを壁に寄りかけてバスローブを羽織らせ、身体を拭く。濡れた髪の毛もタオルで包む。
次に、自分の身体をさっと拭きバスローブに袖を通す。
バスルームを軽く片付け、優樹をお姫様抱っこしてベッドルームに移動する。
髪がまだ濡れているが、ベッドに寝かせた。
寝かせたら羽織らせただけのバスローブの前が開け、優樹の身体が露になる。
先程、散々愛し合ったのに優樹の身体に咲いた赤い痕にまた欲情してしまう。
それほど、浩司にとって優樹の存在はかけがえのないもの。
優樹の身体に付けた赤い花を見ると、浩司の心も柔らかくなる。
『もっと咲かせたい。』
優樹が寝ているとはいえ、かなり獣の考えが頭を世切る。
「ごめん優樹....もう少しだけ触れさせて?」
と、小さく呟いて浩司の唇は優樹の左の太股に触れた。
『チゥッ』っと、音がすると赤い花が咲く。
あのときの傷を覆い隠すように........
浩司は優樹を抱き締める
そして、思い更ける。
角張って尖った優樹の心が柔らかくなっていくことが幸せに感じた。
俊樹も影から協力してくれている。
はじめて結ばれた日もそうだ。
あのホテルを用意してくれたのは俊樹だった。
今回の合宿では、更に優樹の心が解されてきた。
ここ迄、順調に進んでいる。
今まで拒否反応を示していた『愛情』を受け入れることが出来ただけでも御の字だ。
今では、受け入れるだけではなくその愛情に応え、与えてくれる。
そっと寝ている優樹にキスを落とす。
額に、瞼に、頬に、唇に。
「そろそろ止めないと、明日の仕事に差し支えそうだ。」
優樹の腕をバスローブに通し、腰ひもを巻き、布団を掛ける。
浩司はベッドに腰かけて、優樹の頭を撫でている。
優樹が寝返りをうち、背を向けた。
「おやすみ、優樹。愛してるよ。」
こめかみにキスを落として部屋を出る。
『身体の昂りが落ち着くまで書斎で仕事でもするか........』
浩司は急ぎでもない書類に目を通し始めた。
あのまま優樹の傍にいたら寝ている優樹を求めて激しく抱いたかもしれない。
「明日は月曜なのにな........」
浩司はポツリと呟く。
優樹のことを思うと、今のままでいい。
ゆっくりと関係を深めていけばいい。
ただ、自分としては........あのとき再会した記憶を思い出してほしい。
自分との記憶はすべて共有したい。
良いことも辛いことも。
悲しいことはすべて受け止める、そして、包み込んで癒し、溶かしてあげる。
今まで一人で乗り越えてきたことを、今度は俺が手助けしてあげる。守ってあげる。
『愛してるだけじゃ、足りないから........』
ずっと俺の傍に居て。
そして、笑っていて。
ただ、それだけでいい。
今は、それでいい。
優樹のことを、これからも愛していくよ。
覚悟してね。