たった一人の甘々王子さま
仲間と別れたあと、優樹と俊樹とエミが目指すのは『田所コーポレーション』父の会社だ。
優樹の胃痛も酷くなりそう。
自分と父との話で、蚊帳の外になるかもしれないが、俊樹とエミにもついて来てもらった。
「なぁ、ホントに何にも知らないのか?」
優樹が俊樹に質問を投げ掛ける。
「知っていたらすぐ教えるに決まってるだろ?」
俊樹も即答する。
隣を歩くエミも不安顔。
「優樹に怒られるような........思い当たる節はないのでしょう?」
エミが優しく声をかける。
「自分にはないよ......」
優樹が不安混じりの声を出す。
「悩んでいても仕方がないし、先ずは父さんの話を聞こうよ。な、優樹?」
「........あぁ。」
こんなとき、俊樹は本当に有難い存在だ。双子でよかったとつくづく思う。
優樹が悩んでいるときは然り気無く傍に寄り、その時の優樹が欲しい言葉をかける。
俊樹の運転で、父親の会社まで行く。
助手席にはエミが座るので、優樹は後部座席でふて寝する。
「あ―――――行きたくない!」
たまらず声を張り上げる優樹。
「まだ言ってるし、往生際が悪りぃーな」
バックミラーで優樹を見ながら俊樹がいう。
「俊樹くん、優樹って本当におじ様に怒られるの?」
優樹と俊樹を交互に見てエミが不安そうに声をかける。
「いいや、話の内容は解らないさ。ただ、会社に来てくれって言われただけだしな。」
信号で止まって、エミを見つめながら答える俊樹。
『エミが心配することないよ。』
そう伝えると信号が変わり、車を走らせる。
「優、もうすぐ着くぞ。」
「着かなくていいのに。わかった、起きるよ。」
横になっていた優樹が起き上がる。
眉間の縦皺が消えていないが........
俊樹が運転する車は会社の地下駐車場へ進み、役員専用の駐車場まで行く。
「はい、到着――。降りるぞ。」
俊樹の声で優樹もエミも車から降りる。
三人は、役員専用の入り口へ向かう。オートロックのマンションみたいな玄関作りだ。
「私、此処から入るの初めて。」
エミが俊樹に話しかける。
「俺たちもそんなに使わないよ。」
秘書室に繋がる番号を入力しながら俊樹が答える。
『はい、秘書室。』
「あ、川村さん?俊樹です。優樹連れてきました。」
『お待ちしておりました。お入りください。』
「ありがとうございます。エミも一緒ですが........」
『どうぞ。ご一緒に社長室へお越しください。』
「はい、わかりました。」
会話が終わると『ガチャッ』と音がして自動ドアが開く。
そのまま中へ入っていき、エレベーターの前へ行く。
暫く待つと『チンッ』と音がしてエレベーターのドアが開く。そのまま3人が乗り込み、ボタンを押す。階数を表示するパネルを見つめながら指定した階へ到着するのを待つ。
フロアに到着し、俊樹が先頭で歩く。すぐ後ろにエミがついていき、数メートル離れて優樹が歩く。
未だにため息をつきながら........
「なんか、嫌な予感がしてならねぇ―――」
「優、いい加減諦めろ。」
兄弟喧嘩になりそうな雰囲気。
「と、俊樹くん。喧嘩はダメだよ。」
すかさずエミが止めに声をかける。
「エミ......俊とは喧嘩しないよ。」
『ごめんな、巻き込んで―――』
そう優樹が呟いたところで目的地
――――社長室に着いた。