たった一人の甘々王子さま
教育実習5日目。
一週間の締め括り。
あっという間に過ぎた一週間だった。
高校2年生は受験する生徒は忙しくなる頃だが、高校生活に慣れてきた彼らはとても楽しそうに過ごしている。優樹にも懐いてくれて、お友だち感覚だ。
休み時間や部活動後は、生徒たちとよく話す。優樹も数年前を懐かしむように。
共学といっても、優樹の担当する生徒は女子生徒だ。
男女別で授業を行うので、男性教諭が女子生徒を受け持つことがあっても、逆はない。
浩司に伝えたらとても安心していた。
優樹の指導を受け持つクラスの担任は体育科の男性教諭、吉野先生。
体育科の先生だけあって体つきがガッシリしていてラガーマンのようだ。
浩司よりも小柄で、優樹さほど変わらない背丈。
気さくで、三枚目気質。とても話しやすい雰囲気作りが上手な先生。
先生の普段使用しているファイルの内側に奥さんと子供の写真を入れているのを見つけたときは可愛いとさえ思った。
『奥さんと、息子の健汰(ケンタ)なんです。二人の笑顔が私の元気の元なんで。』
打ち合わせの時にそう教えてくれた笑顔が素敵で、10年後は浩司もこんな感じなのかな?なんて思ったり。
「田所先生。お疲れ様です。今日で一週間ですね。今夜は体育科の教師だけで飲みに行きませんか?と、言ってもここにいるメンバーですけどね。」
吉野先生から、1日の仕事を終え、レポートを纏め終えたところで声をかけられた。
「え?いいんですか?ご一緒しても?ありがとうございます。」
「では、帰り支度の出来た方から向かいますか?」
「吉野先生、いつもの店でしょ?先に言って注文しておきますよ?」
3年生の担当教諭、西野先生が先に現地に向かった。
「では、私たちもお先に。」
「吉野先生は、田所先生を連れてきてくださいね。では、田所先生、またあとで。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
西野先生に続いて、川之江先生と小早川も出ていった。
西野先生は40代の男性教諭。
川之江先生は30代の女性教諭。
小早川先生は優樹に一番年の近い男性教諭。
小早川先生の存在は浩司にとって不安の種だろうから優樹は秘密にしている。特に、年齢のことを。
浩司には、
『皆さん30代の先生だと思う。流石、体育科の先生だよね!身体動かしてる人はほんと若いよね。』
と、伝えただけなのだ。
「田所先生、準備出来ました?私たちも行きましょうか?」
吉野先生に声をかけられ、慌てて立ち上がる。
「はい。お待たせしました。よろしくお願いします。」
体育科の職員室を出て鍵を閉める。
その鍵を普通教科の先生たちが利用するメインの職員室へと持っていく。
「体育科の吉野です。施錠完了です。」
「はい、お疲れさまでした。」
事務課の方に一言伝え部屋を出る。
「さ、先生方が待っていますし、行きましょうか?」
「はい。楽しみです。」
吉野先生と共に飲み会のお店へ向かう。