たった一人の甘々王子さま


「吉野先生、こっちですよ~!!」


座敷の方から川之江先生が声をかけてくれた。
靴を脱ぐ吉野先生に優樹は声をかける。


「吉野先生、ちょっとお手洗いに行ってきても良いですか?」


「あぁ、この通路を真っ直ぐ行って、突き当たり右だから。」


『すみません、すぐ戻ります。』
と、伝えて優樹はその場を離れる。
お手洗いに行くのは浩司に電話をするためだ。


同棲している婚約者・浩司の事は先生たちにも秘密にしている。
提出してある書類にはすべて実家の連絡先を記入しているのだ。


今日の飲み会も急遽決まったし、ずっと吉野先生と一緒に居たため連絡が出来ていない。
『早く浩司に連絡しないと......晩御飯の事もあるし..........』
優樹は鞄からスマホを取りだし電話帳を開く。
スクロールして浩司の名前をだし、通話ボタンを押す。


『プップップッ―――』


機械音が聞こえ、呼び出し音に変わる。


「浩司、早く出ないかな?」


居酒屋チェーン店の此処はとても人気のお店のようだ。
優樹は初めて入った。
チェーン店といっても色々な種類の店があるのだから初めてのところだって沢山あるに違いない。
店内はとても賑やかで、トイレ前だけ少し静かだ。
少し離れたところにあるからかもしれないが。


「この時間、きっと仕事だろうし........もしかして、会議中かな?」


『メールにしておこっと』
と、電話を切ろうと耳からスマホを離したとき、


『優樹?どうした?』


スマホから浩司の声が聞こえた。


「あ、浩司?ごめんね、仕事中に。」


『うん、少しなら大丈夫だよ?何かあった?』


「えっとね、体育科の先生達みんなでご飯食べることになったの。多分、二時間コースだと思う。」


『お、そうなんだ。楽しんでおいでよ?じゃあ、俺も何か食べてから帰るよ。遅くなるようなら電話して、迎えに行くから。』


「ありがと。すぐにここの場所メールするね。あ、そだ。浩司......」


『なに?』


「んと......いつもありがと。だいすき。じゃあ、お仕事、無理しないでね。」


そう伝えるとすぐに電話を切り、壁に貼ってあるお店のチラシを写メールで送信する。


『送信できました。』


と、表示されたのを確認して先生達が集まる座敷に戻った。


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