たった一人の甘々王子さま
「お待たせしました。」
優樹が席につくと目の前にはビールが。
「はい、田所先生。いきますよ!」
川之江先生が音戸を取り、みんなで
「一週間お疲れさまでした!かんぱーい!」
皆、各々のペースで飲んでいく。
コース料理にしたのか、次々とメニューが運ばれる。
どれも美味しそうだ。
やはり、若い小早川先生が一番食べている気がする。
西野先生は日本酒をゆっくり嗜んでいる。
蟹味噌や刺身がアテのようだ。
「さて、田所先生に質問タイム。」
ほろ酔い気分の川之江先生が突然切り出した。
「え?なんですか、急に?」
「あー......田所先生、諦めて。これね、毎年の恒例なんだよ。実習生が来たら川之江先生が質問するって言うのが。」
吉野先生が向かいの席から説明する。
西野先生もウンウンと頷く。
「はい、では質問するわね。田所先生、いえ、優樹ちゃん。今現在恋人は?大学生だもの、いるわよね?」
「え?思いっきりプライバシー侵害してますよ?あと、その言い方は厳しいですね......大学生は恋人いないとダメですか?」
優樹は取り分けたサラダを食べ終えて質問返し。
「あら、優樹ちゃんって呼ばれることには問題ないのね。で、恋人は?」
川之江先生も負けていない。
「呼び方は気にしません。お好きなように。で、質問の恋人の是非ですが......」
先生方みんな気になるのか優樹を見ている。西野先生は気にしてない素振りで酒を飲んではいるが、チラチラ目線がぶつかる..........。
「......いますよ。」
「あら、やっぱり?火曜日だったかしら、そんな雰囲気があったのよ。」
川之江先生が
首をかしげて思い出すように答える。
『火曜日?』優樹も思い出す。何かあったっけ?
「はっ!」
優樹は思わず声をあげた。
「優樹ちゃん?どうしたの?」
「いえ、おきになさらず........」
誤魔化して唐揚げを頬張る。
そう、火曜日にそんな雰囲気だとしたら..........ヤキモチを妬いたあの夜だ。
しかも、お風呂場で..........
「川之江先生、他の質問にしてもらえません?恋バナは恥ずかしいです。」
「あら、若いのに?仕方ないわね。」
酔っ払い程ではないが、親しい仲でもないのにアレコレ話すのは得意ではない。
身売りする感じで嫌なのだ。
「そうそう、私のことを話しましょうか?」
と、言う川之江先生に、
「もう、聞き飽きました。遠慮します!」
そう遮ったのは小早川先生だ。
「俺、毎年聞かされてもう、勘弁してほしいです。西野先生も吉野先生も、勘弁してほしいですよね?」
「まぁ、小早川はまだ若いからなぁ~俺みたいに50近くなるとそんな話はこれっぽっちもないからな........」
と、西野先生が答えれば、
「川之江先生はご夫婦共に教師で、とても忙しいのに、結婚7年経っても新婚さんみたいですよね。俺も頑張ります。」
吉野先生も誉める。
その言葉に気をよくした川之江先生は、
「やっぱり、できる男は違うわねぇ~。」
と言い、店員さんにビールを注文してさらにご機嫌だ。
「田所先生、体育科の飲み会ってこんなもんですよ?大学のサークル活動の延長みたいな?あ、うちだけかも知れませんけどね?」
ハハハッ!と、笑って吉野先生がこっそり教えてくれた。
先生方は、若い頃の恥ずかしい失敗談を面白おかしく話してくれてとても楽しい飲み会だった。
『参加してよかったな』と、思った優樹だった。
「さてと、そろそろお開きにしますかな?」
西野先生が声をかける。
「では、また月曜日に。」
と、吉野先生。
「優樹ちゃん、楽しかったわ。彼氏によろしくね!」
最後もお茶目な川之江先生。
「田所先生、お疲れさまでした。また来週もよろしくお願いします。」
小早川先生が軽く頭を下げた。
「はい。先生方、今夜はありがとうございました。とても楽しい時間を共有できて感謝しております。ごちそうさまでした。また来週から宜しくお願い致します。」
優樹も確りお辞儀をして挨拶をする。
「あらあら、そんなに畏まらなくても........」
川之江先生が側に来てくれた。
「気合い入れすぎると、倒れちゃうわよ?小早川先生みたいに。ね?」
話を振られた小早川先生は恥ずかしそうだ。
「その話は、また次回にでも........」
少し、頬が赤いのはお酒のせいか、照れのせいか......?
『おやすみなさい!』
と、言いお店の前で散り散りに別れた。