泣いてもいいよ。
辺りは薄暗い。
普通告られたら嬉しいはずなのに、ちっとも嬉しくない。不思議。美羽のこともあるから、あっさりオッケーなんてできないし。美羽のことがなかったら、もしかしたらオッケーしてたかもしれないけど。いや、でもそれはないか……。楠本くんのことが好きってことには今も変わりはない。
美羽に対する申し訳なさと、大垣くんに対する申し訳なさと怒り。
自分に対するやるせなさ。なにをどうすれば良かったのかは分からない。ついさっきの出来事なのに、遠い昔みたいだ。私は今、来たこともない隣町の川の堤防を歩いている。
「おいっおのはる!けほっ!」
「お、大垣くん!」
「こんなとこまで歩いてきたのか?バカだろ」
「いや、バス使ったけど……」
なんで分かったんだろ?
「そんなことはどうでもいいの。……さっきのこと、ダメ?どう?」
大垣くんの言葉がよみがえる。
「ダメっていうかその……私はやっぱり楠本くんが好きだから。大垣くんだって知ってたでしょ?」
大垣くんは目を伏せた。
「あの、大垣くんには分からないかもしれないけど……死んじゃってもやっぱり楠本くんは楠本くんなんだよ」
なにも言わない。
そういえば大垣くん、制服着たままだ。もう下校時間から四時間は経ってるのに。
「俺は……お前が好きなんだよ。もう照れなんてどっかいっちまうほど好きなんだ」
「それは……ありがとう。嬉しい。だけど」
「そうだ」
大垣くんが顔を上げた。
「明日、俺ん家来ないか?」
「へっ?」
「康太の母ちゃんに貰ったんだ、康太の日記。遺品整理してたときに出てきたんだって」
楠本くんの、日記。
「読んだんだけど……俺が読むよりおのはるが読んだほうがいいって思った」
私のほうが……。どういうことだろう?
「明日来いよ。何冊もあるから学校には持って行けない」
「……わかった」
楠本くんが書いた日記なんて、読んでいいのかな?でも、読みたい。私が読んだほうがいい内容なら、読みたい……。
< 12 / 18 >

この作品をシェア

pagetop