泣いてもいいよ。
「お邪魔します……」
「今家族いないから。緊張しなくていいよ」
「あ、そ、そう?」
でも、やっぱり男の子の家に上がるなんて初めてだからなぁ。
「階段上がってすぐ右が俺の部屋だから、そこで待ってて」
「分かった」
大垣くんはリビングへ消えていった。
私は階段を上がって、大垣くんが言ってた部屋に入った。
「わぁ……」
私の兄弟に男はいないから、男の子の部屋ってどんなのなのかわからなかった。
でも飾り気がなくて、スポーツ雑誌があって、っていうのはドラマでよく見るタイプだ。
「あ、掛けててよかったのに」
「う、うん。ありがと」
大垣くんが入れてくれた麦茶を口に含み、ゆっくりと飲んだ。
「……そうだ。日記」
「あぁ……日記な。ちょっと待って」
心なしか大垣くんの声のトーンが低い。
「こっち」
「どこ?」
立ち上がって机の前にいる大垣くんの元へ……。
「待って!やめて!大垣くんっ!」
急に手首を掴まれてベッドに押し倒された。
「大垣くん!ねぇ!」
目の前に大垣くんの顔……。
綺麗な顔だけど、今はそんなこと考えてる暇はない。
やばい。
「遥……俺はな、遥が康太のことを好きになる前からお前が好きだったんだよ」
初めて遥って呼ばれた。
「……え?」
「高校上がって、お前とクラスが一緒になって……一目惚れしたんだよ。大好きなんだよ」
「でも、でも、大垣く……きゃっ!」
首筋にキスされた。
「こんなのダメ。ダメだよ大垣くん……!」
「やり方は乱暴かもしれないけど、俺は合ってると思ってるから
……」
大垣くんの手が私のブラウスのボタンに伸びて来たときだった。
「もう!」
パーン!
「いってぇーっ」
平手打ちをしてしまった。いや、しなきゃなんないでしょ。こんなの、やっぱりダメだよ……。
「全部このため?」
「おのはる……」
「私を家に誘ったのも、付き合ってって言ったのも、全部このためなの?」
大垣くんはそんな奴だったの……?
「私とエッチするために美羽の気持ちも私の気持ちも無視したの!?」
腹が立って仕方ない。
「もう、最悪。大嫌い。大っ嫌いだから……っ!」
大垣くんを押しのけて部屋の外へ出た。階段を駆け下りて、家を出た。
そこからずーっと走って、走って、気づいたら……。
「あれ、遥。どうしたの?こんなに汗かいて」
優しい笑顔で言う楠本くんが目に浮かんだ。
そうだ。
ここ、楠本くんとよく来た公園だ。
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